2024/11/21 第33回 全国救急隊員シンポジウム(秋田市)

EMSニュース No.91

Journal of Emergency Medical Services 2022/2/1掲載
国際病院前医学研究所文献レビュー、2022年2月抜粋
目次

1.静脈輸液バッグを加温するための病院前での簡便な即席の方法

Lyng JW, Perlmutter MC, West MA(医師、ミネソタ メディカル スクール大学)、JACEP Open 2021/10/4

低体温症は”外傷死の3徴候”の一つであり、外傷被害者の救急処置中の合併症であることが多い。しかし、病院前で予防するのが最も簡単なものかもしれない。傷病者は外傷でも病気でも同様に保温する必要がある。傷病者の区画を温かく維持し、ブランケットをかけるだけでなく、加温した静脈輸液は傷病者の低体温の可能性を減らすのに役立つ。
市販されている静注輸液ウォーマーが複数ある。これらの製品は効果的であるが、費用、保管スペースおよび利用可能な電源により、救急サービス提供者が必ずしも利用できるとは限らない。長年にわたり、救急サービスの担当者は救急車の加熱ダクトとフロントガラス・デフロスターを即席・静脈輸液加温器として使用してきた。本研究の著者らは、この輸液加温技術の有効性を検討し、フロントガラス・デフロスターで加熱された輸液バッグの温度と、同じ車両内での輸液バッグの温度を比較した。
著者らは2005年型のMercury Mountaineerをテスト車両として用いた。1L生理食塩水の輸液バッグを20個揃えた。すべての輸液バッグをまず21℃に8時間置き、クーラーに保管した。1回に2袋を実験用のクーラーから取り出し、バッグ内の液体の温度を測定するプローブを装着した。1個目のバッグはフロントガラス・デフロスターのベントの上に置き、2個目は車両の非加熱のセンターコンソールに置いた。次いで、自動車を、あらかじめ設定された経路に沿って、フロントガラス・デフロスターを稼働させたまま市街路を走らせた。試験走行時間は30分間とした。この試験走行を同じ日に10回、同じ経路に沿って、各試験2つの新しいバッグを用いて繰り返した。
バッグの初回記録温度は平均19.4℃であった。デフロスターのバッグの温度は27.7℃から38.1℃の範囲で、平均温度は32.6℃、「通常」体温より4.4℃低かった。コンソールのバッグの温度は20.1℃~22.3℃の温度域であった。
車両の暖房用通気孔およびデフロスターは、即席静脈輸液バッグ加温器として有効であり得る。マイナス面は、救急処置中に輸液の温度を簡単に調節または制御できないことである。温度は、車両の走行や電源オフ時に変化する。また、静脈輸液バッグがフロントガラスの通気口をふさいで、曇りや氷結を引き起こす場合、安全上の懸念を生じる。
全ての傷病者は、意図しない低体温の可能性を最小限にするため、可能な限り正常体温に近い輸液を受けるのが理想的である。救急サービス機関および医療提供者は、静脈内輸液バッグを加温し、投与するために、制御可能で予測可能な製品と技術を使用するよう努めるべきである。静脈内輸液の重要な温度は、輸液が傷病者の体内に入ったときの温度である。医療提供者はまた、静脈チューブを断熱する方法あるいは、チューブの末端に加熱する装置を使用する方法も検討する必要がある。

2. 病院前における重度の外傷での大量輸血プロトコル(MTP)発動の有効性

Botteri M, Celi S, Perone Gら、(医師、イタリア)、J. Injury . 2021/12/30

外傷による死因で最も多いのは、外傷性脳損傷と急性出血である。出血性ショックは外傷死全体の30~40%を占め、その半数は病院前の状況で発生する。重度の出血は外傷誘発性凝固障害(TIC)をもたらし、それにより残った血液の凝固能が損なわれる。この凝固障害は、病院前の処置段階で始まり、病院に到着するまでに全外傷傷病者の最大30%が血液凝固能の低下を示す。この傷病者群では死亡率が4倍増加する。院内の輸血方針は、失われた血液を補充しながらこの凝固障害を是正することに焦点を当てている。治療戦略には大量輸血プロトコル(MTP)と早期ダメージコントロール手術を併用する。MTPは病院によって異なるが、濃厚赤血球と血漿および血小板との比を設定して輸血する。
この研究では、多忙なイタリアの外傷センターで病院前にMTPを発動した7年間について分析した。病院前の医療提供者は、初期のMTP発動によって良い結果を得る可能性がある傷病者を同定する。彼らは、病院前トラネキサム酸(TXA)を投与し、血栓の崩壊を防ぐが、血液製剤自体を輸血しない。それらの基準に基づき、外傷処置提供者は、傷病者到着前に輸血用血液製剤を準備する。外傷チームリーダーは、病院到着後にすぐに傷病者を再評価し、救急隊の知見と一致した場合、直ちに輸血を開始した。傷病者は、以下のMTP発動の基準のうち2つを有する必要がある:

  • 晶質液のボーラス投与に反応しなかった後の低血圧(収縮期血圧<90mmHg)  
  • 心拍数>110 bpm
  • 制御不能な出血  
  • 貫通創
  • American College of Surgeons(アメリカ外科学会)のAdvanced Trauma Life Support (ATLS)ガイドラインによる循環血液量減少性ショックのクラスIIIまたはIV

7年間の研究期間中、MTPは242回発動された。18人の未成年傷病者と5人の非外傷傷病者を除外し、最終的に219人を解析対象とした。外傷チームリーダーは、傷病者の219例中146例(66.7%)が緊急輸血の必要基準を満たしたと承認した。即時輸血の必要性の最も感度の高い予測因子は、心拍数を収縮期血圧で除したものとして定義されるShock Index (SI)であった。SI >0.9が即時輸血の必要性の最良の予測因子であった。
著者らは、症例の3分の2で基準が正しいことから明らかなように、病院前の医療提供者がMTPの必要性を判断できることを確認したと、研究結果から解釈した。これらのデータは、病院前のMTPの発動が輸血までの時間を短縮することを示唆している。基準を満たした者は平均7単位の血液成分を投与された。
本研究には、いくつかの限界がある。これは後ろ向き研究であり、輸血基準を満たすことが早期に特定された傷病者と、病院到着時に外傷チームにより特定された傷病者の、延命効果を証明する解析はなかった。また、著者らは輸血を必要とする損傷の重症度を判定するための、傷病者の損傷重症度スコア(ISS)を算出していなかった。

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