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EMSニュース No.107

Journal of Emergency Medical Services 2024/1/1掲載

(1) 小児外傷における病院前輸血と死亡率との関連

Morgan KM, Abou-Khalil E, Strotmeyer S, およびその他. (JAMA Pediatr.)

小児における予防可能な死亡の最も一般的な原因の一つは、出血性ショックである。小児の出血性ショックは、見極めが難しい。なぜなら、小児は一般的に循環虚脱寸前まで正常血圧を維持できる生理的予備能が高いためである。病院前の輸血による迅速な治療は、出血性ショックに対する成人外傷傷病者の死亡率を改善することが示されている。そのため、成人に対する病院前の輸血・輸血血漿の使用は一般的になりつつある。一方で、小児外傷集団における厳密な研究はなされていないため、進んでいない。

本研究は、州内の50以上の外傷センターのデータベースであるペンシルバニア外傷システム財団(Pennsylvania Trauma Systems Foundation)を使用したレトロスペクティブレビである。

検証対象

  • 2009年1月~2019年12月の期間に救急外来での輸血(EDT)または病院前輸血(PHT)のいずれかで赤血球輸血を受けた0~17歳の小児
  • 施設間搬送の傷病者は除外

検証方法

  • 主要評価項目は24時間死亡率とした。
  • 副次的転帰は院内死亡率と院内合併症とした。
  • 輸血群間の選択バイアスを最小化するために傾向スコアマッチングを用いた。

検証結果

合計559例の小児が最終解析に組み入れられた。そのうち70例(13%)がPHTを受け、489例(87%)がEDTを受けた。
PHTを受けた小児は、ショックと鈍的外傷の割合が高かったが、それ以外では年齢、性別、GCS、重症外傷性脳損傷の割合に差はなかった。PHTを受けた小児は、ヘリコプター救急で搬送される確率が高かったが、病院前救急処置のレベルには医療機関間で差はなかった。24時間死亡率(16%対27%)、院内死亡率(21%対32%)となり、PHT群はEDT群に比べ低かった。院内合併症は両群間に差はなかった。

留意点

  • 本研究の限界はサンプル数が少ないことである。これは小児におけるPHTの頻度が低いことに起因する。
  • この研究は、州全体のデータベースを対象としたレトロスペクティブレビューであったため、他の外傷システムには適用できない可能性がある。
  • トラネキサム酸の投与や他の止血補助剤の使用など、その他の治療については記録されていない。

検証考察と成果

この研究は、傷害を負った小児におけるPHTの効果を調べたものとしては、これまでで最大のものである。著者らは、病院前輸血を受けた傷病児は、救急部到着まで輸血を受けなかった傷病児に比べ、24時間死亡率および院内総死亡率が低いことを証明した。これらのデータは、成人の外傷集団で見られたものと一致している。これらの所見を確認するためには、さらなる多施設での積極的な試験が必要であるが、この研究は、小児の外傷における病院前輸血の有益性について、確実に肯定的な方向を示している。

(2)外傷患者における病院前の疼痛管理の差は患者の人口統計学と関連している

Supples MW, Vaizer J, Liao M, およびその他. (Prehosp Emerg Care)

救急傷病者の約20%が痛みを経験していると推定され、時には激痛を伴うこともある。プレホスピタル・プロバイダーは、傷病者の痛みを適切に評価し、治療すべきである。痛みを治療しない、あるいは治療が不十分であることは、鎮痛処置不全(oligoanalgesia)と呼ばれている。現在、大きな問題となっているオピオイドの蔓延に対する懸念から、痛みに対する治療が、鎮痛処置不全の現状を助長しているという意見もある。本論文の重要な点は、傷病者の属性が病院前の鎮痛プロトコル遵守に影響を与えるかどうかの疑問を検証することである。本論文の著者らは、米国内のある大都市圏にある第三の救急医療機関について、この疑問に答えようと試みた。

検証対象/調査機関

  • 大学の治験審査委員会が承認した、内科的疾患を伴わない外傷を負った成人傷病者に対する電子カルテのレトロスペクティブレビューである。
  • 過去にさかのぼった期間は2018年1月1日から2020年6月30日まで
  • 評価された傷病者の属性は、人種、年齢、性別である。

調査前提

  • 実際の救急搬送時間は、最初のグラスゴー・コーマ・スコアとともに調査された。
  • 救急隊員は痛みを1~10で評価し、10が最も重い。救急隊員は、アセトアミノフェン(経口)、ケトロ ラック(筋肉内・静脈内)、フェンタニル(静脈内・静脈内)を、 傷病者の疼痛緩和のために用意している。
  • 救急隊員は、痛みを訴えるすべての傷病者に対して鎮痛を考慮することができ、救急隊の医療責任者は、疼痛評価スコアが4以上のすべての傷病者に対して鎮痛を行うことを推奨。
  • 調査対象都市の人口は80万人(白人59%、アフリカ系アメリカ人29%、ヒスパニック系10%)。全体として、人口の17%が貧困レベルかそれ以下で暮らしている。

調査結果

調査期間中、救急隊は205,225件の救急要請に対応した。その内訳は、医療(内科要因)が168,101件(81.9%)、外傷が 32,463件(15.8%)、その両方が4,638件(2.3%)であった。外傷のみ対応の32,463件のカルテのうち、最も多い受傷要因は転倒(40.2%)と自動車事故(31%)であった。
傷病者の半数以上(53%)は “白人 “であった。半数は女性で、平均年齢は45歳であった。
初期疼痛評価スコアの中央値は “5 “であった。最も多く投与された鎮痛薬はフェンタニル(94%)であり、ケトロラク(5.3%)とアセトアミノフェン(0.7%)がそれに続いた。外傷のみの傷病者のうち、鎮痛薬を投与されたのは4,989人だけであった。残りの傷病者(85%)は鎮痛剤を投与されなかった。疼痛スコアが高いのは、アフリカ系アメリカ人と女性傷病者であった。非白人傷病者と女性は鎮痛薬を投与される傾向が低かった。

考察

著者らは、鎮痛薬として圧倒的に使用されたのはアヘン系のフェンタニルであったと指摘した。著者らは、鎮痛プロトコルの遵守は、疼痛軽減と緩和のための非麻薬の選択を強調する教育と医学的指導によって改善される可能性を指摘した。

留意点

この研究にはいくつかの留意する点がある。

  • 第一に、救急隊員が確認した外傷のみを対象とし、治療が必要なその他の痛みの原因を対象としていないことである。
  • 単一の救急医療機関のデータを使用したため、地域の慣習や文化に偏らないデータには限界がある。
  • 文書には、鎮痛剤を勧められたが拒否した傷病者は含まれていない。
  • 医療者と傷病者間のコミュニケーションの障壁も考慮されていない。
  • 最後に、傷病者の性別は男性または女性に限定し、性別不詳の傷病者は含めなかった。

結語

病院前の傷病者は、外傷治療であれ、内科的治療であれ、あるいはその両方の組み合わせであれ、痛みの評価と治療を受ける必要がある。これは傷病者ケアの基本である。すべての痛みをアヘン剤で治療する必要はない。プロトコルでは、非ステロイド性抗炎症薬のような代替薬の投与や、経鼻のようなオピエートの代替投与経路を認めるべきである。苦痛を軽減することは、すべての傷病者にとって必要で、人道的なことであり、傷病者ケア全体の改善につながる。

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