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EMSニュース No.54

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小児の四肢の出血とターニケットの使用

エリカ・シモンDO. MHA、スコッティ・ボレターBS EMT-P、エリオット・M・ロス MD MPH、チェタン・U・カーロッドMD MPH 著
JEMS 2018/11 掲載

市販のターニケットは、小さな子どもにも効果があるのだろうか?

Gun Violence Archive(銃暴力事件を記録する非営利団体)によると、2017年には346件の(殺傷を目的とした)乱射事件があり、死亡者は437名、米国の歴史上最悪の年だった。2018年の1月1日から3月20日までの間に、10回の乱射事件が学校で起こった。狙撃者は目標の選択において無差別なことが多いが、市販のターニケットを子どもに使用することに関して、発表済みのエビデンスを再検討する必要を感じさせる。

データは少ないが、ターニケットの小児への適用について証明できることの多くは、戦場から得られている。 2009年に発表された研究によると、「イラク戦争」および「アフガニスタン戦争」中に戦闘支援病院で入院が必要とされた最も一般的な診断は、四肢の損傷であった。この負傷者達の特徴を明らかにするために、研究者達は国防総省・外傷記録(以下DoDTR)を用いて、子どもの犠牲者への救急のターニケット使用を評価した。ターニケットが適用された88人の負傷者のうち、57人が四肢の損傷の記録があり、7人が死亡したことがわかった。(ISS・傷害重症度の平均スコア= 27、範囲は8~75)。
死亡した小児患者のうちの2人には、記録されるほどの重篤な四肢の損傷(すなわち、擦過傷、裂傷または火傷)があった。2012年に行われたデータの再検討では、負傷による副次的死因は(四肢の損傷であっても)、出血のコントロール不足やターニケット使用の失敗とは同義ではなかった。
2014年に行われた研究では、イラクとアフガニスタンの米国軍病院で血管損傷の治療を受けた、1〜17歳のDoDTRの受傷者(2000〜2011年)が再検討された。著者らによると、45人の受傷者が上肢を損傷、59人に下肢の血管損傷があった。ターニケットが合計6つ適用され、そのうち3つが現場で、3つが病院の救急部において使用された。現場でターニケットが適用された全員が生存、救急部でターニケットを適用された3人のうち2人が生存し退院した。(脳損傷もあった1人は後に死亡)
1年後に発表された研究はアフガニスタンのCamp Bastion(基地)で2004年から2012年の間に治療された小児患者を(DoDTRのデータの検索を用いて)再検討した。怪我をした766人の子供(18歳以下)のうち、125人が四肢を損傷、病院到着前にターニケットの装着を必要とした(AISスコアが2以上)。これら125人の小児の被害者のうち、47人にターニケットが適用された。
ターニケットの使用は、ISSスコアで調整すると死亡率に有意な差を示さなかったが、下肢切断をターニケットで手当てされた子どもらに必要だった輸液と血液製剤の量は、有意に少なかった(輸血関連合併症のリスクを低減)。
これらの結果を踏まえてCommittee on Tactical Emergency Casualty Care(C-TECC)は、直接的な脅威の下での手当てにおいて、小児患者に対する最初の医療介入としてターニケット使用を推奨することを発表している。
挫滅創および圧迫の原因が除かれると、損傷した組織細胞成分に由来する有害物質が全て、全身に放出される。この全身への放出で最終的に死に至ることもあるので、挫滅創の可能性がある受傷者の手当てでは細心の注意を払い、早期治療をするべきだ。
挫滅によって放出される主な有害成分は、ミオグロビンおよびカリウムである。腎臓が排出できるよりも速く腎臓にミオグロビンが蓄積すると、腎尿細管細胞を損傷し、急性腎不全に至る。損傷した細胞から漏出するカリウムは、血管内のカリウムを増加させ、致命的な不整脈を引き起こす可能性がある。
損傷した細胞から放出される他の有害物質の例には、乳酸、ヒスタミン、酸化窒素およびトロンボプラスチンが含まれる。乳酸は代謝性アシドーシスを引き起こし、カリウムと同様に心臓性不整脈に至ることもある。ヒスタミンの放出は、血管拡張および気管支収縮を引き起こし、受傷者は息苦しくなり、呼吸困難に至る可能性がある。酸化窒素は血管拡張を引き起こすことによって、血液量減少ショックを悪化させる可能性がある。トロンボプラスチンで、播種性血管内凝固症候群(DIC)に至る可能性もある。
他の数種類の物質も有害で、電解質障害を引き起こし悪影響を与え得ることが判明しており、尿酸、カルシウム、細胞内酵素、ロイコトリエンおよびリン酸がこれに含まれる。放出された有害物質の多くが血管拡張を引き起こすので、毛細血管床からの漏出、浮腫、体液のサードスペースへの流出、および血圧低下の度合いが増す。
血液量減少症および心臓性不整脈を予防するためには、早期の治療が不可欠だ。
受傷者の身体がはさまれた状況によって輸液が不可能な場合、救出の間、静脈へのアクセスが確立されるまで、ターニケットを短時間でも損傷した四肢に使用することを考慮すべきだ。
病院到着前の早いうちに生理食塩水を用いた点滴を施すことは、死を防ぐために非常に重要である。かつて、受傷者が拘束から救出されてわずか数秒後に心停止に陥る、といった例が見られた。早期の心停止の原因には、一般的に前述したような血液量減少、高カリウム血症および重度の代謝性アシドーシスがある。
受傷者が心停止しない場合でも、早期に適切な液体補充処置が施されないと、腎不全、敗血症、急性呼吸窮迫症候群および播種性血管内凝固を含む後の合併症を引き起こす可能性がある。

小児用のターニケット:どれぐらい小さければいいのか?
小児の四肢の太さに関する歴史的に最も広範な研究は、1975年に米国の子供の身体測定を評価した観察研究である。研究者は4,027人の子供(新生児から12歳まで)の四肢の周囲を3年にわたって測定した。年齢別の平均値は、表1に詳しく示されている。

ノース・アメリカン・レスキュー社のCATの第6、7世代は、四肢の周囲が12.7~88.9cm で有効とされており、子供用のRMTは周囲6.35cmの小ささでも効果があるが、SOFTT、SOFTTW、SWATの製造元は、四肢の周囲(太さ)については特定していない。
ここで重要なのは、これらのデバイスに効果が無かった、あるいは子どもに使用しても効果が無いことを示すデータは現在はないことだ。これはさらなる研究と発表が行われるべき領域だ。
前述したように、市販のターニケットについては、データや症例報告がなく、これには間に合わせのターニケットおよび市販のターニケットの類似品も含まれる。しかし我々は、小児生理学を考慮することができる。
出血制御における我々の目標は、外傷より体の中心に近い位置に十分な圧力を作り出し、動脈血流を妨げることである。小児の循環血液量は体重1kgあたり約80 ml なので、少量の失血でも低血圧症につながる可能性がある。(表2参照)

ターニケットで加える圧力は、受傷者の収縮期の血圧を超えるだけでよい。直接押さえる、市販のターニケット、または間に合わせで作った止血帯の適用では小児の四肢の出血を制御できない可能性を示す現在のデータはない。
これまでずっと使われてきた簡単なもの、例えば三角巾を輪にして子供の四肢を締めるようなものでも、十分である。
もし大人用の市販のターニケットが手元にあり患者の四肢の太さが懸念される場合は、ターニケットを固定する前に、巻いたガーゼやパッドを圧迫帯の下に入れることをお勧めする。これで大まかに四肢の太さを増すことになる。

結論

現在のエビデンスは、直接圧迫、市販のターニケットまたはその場で作られた止血帯が、小児の四肢の出血を適切に制御できることを示している。緊急事態に備えるためには、そのための特別でかつ定期的なトレーニングが必要だ。シミュレーションで(人間の、すなわち標準化された)小さな受傷者に対して、直接圧迫、市販のターニケット、および三角巾などで出血制御の練習をすることを勧める。

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