2024/11/21 第33回 全国救急隊員シンポジウム(秋田市)

EMSニュース No.85

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暑さを感じる:労作性熱中症の管理

マーク・リアオ、医師 /  ドロシー・ハブラート医師による専門家ピアレビュー)著
EMS1 2019/8/15 掲載

NAEMSP(全米EMS医師協会)とNATA(全米アスレティックトレーナー協会)は、冷水浸漬療法による労作性熱中症の治療について、第一に冷却・第2に搬送のアプローチを推奨する

臨床シナリオ

25歳の男性がハーフマラソンのゴールの医療ステーションに運ばれる。外気温は22.7℃、湿度は45%で、かなり穏やかだと感じる。傷病者は質問に適切に反応せず、蒼白で発汗がみられる。彼の額に触れても皮膚は熱く感じず、湿っている。鼓膜体温計は36.7℃を表示する。傷病者は持続的に混乱し、続いて直腸体温計が使用され、41.1℃を表示する。

症例検討

労作性熱中症(EHS)は、身体運動で過度に高くなった深部体温による環境的救急医療症状である。これらの症例は高齢者にみられる古典的熱中症に含まれるか、熱疲労など他の種類の労作性熱中症と並んで報告されるため、年間有病率に関する全国サーベイランスのデータは解りにくい。」。2018年、米国軍は、世界規模の作戦および訓練中に現役勤務の兵士に対して578例のEHSを経験した。インディアナポリス・ミニマラソンでの8年間で、235,000人以上の参加者の中から32例のEHSが確認された。全米EMS 医師協会は、EHSの早期の積極的な処置の必要性を認識し、2018年に病院前でのEHSの判別と管理の概要を示す重要な合意声明を発表した。

労作性熱中症の症状と判別

身体活動を行い、中枢神経系障害がある場合は、EHSを考慮すべきである。これは、いらいらや混乱から、意識の低下まで様々である。EHSは暑い気候に関連しているにもかかわらず、涼しい天候でも起こり得る。EHS傷病者が発汗をしなくなるというのは、よくある誤解である。傷病者に触れると、必ずしも温かく感じるわけではなく、皮膚の湿気を伴って冷たく感じることさえある。昏睡や意識消失などの深刻な中枢神経系機能不全の発生を待つと治療が遅れる。

機器が不正確な場合、EHSの誤認が生じる可能性がある

EHSの深部体温評価の唯一の実用的な方法は、15cmの深さで直腸体温計を測ることである。NATAは、NAEMSPと同様に、直腸体温計をEHS評価のゴールドスタンダードと考え推奨してるので、EHS救急処置計画の一部とすべきである。
そのため、救急提供者は救急車到着前に使用するこれらの体温計について教育を受ける必要がある。直腸体温計は、いったん挿入されれば、冷却作業中および搬送中の継続的なモニタリングのために留置される。病院で使用される直腸体温計の多くは直腸内に1.5cmしか挿入されていないため、EHSの評価には十分な精度がない。側頭動脈体温計、耳/鼓膜体温計、口腔体温計はEHSの検出において正確ではなく、使用すべきではない。

労作性熱中症傷病者における急速冷却の戦略

急速冷却はEHSの重要な管理ステップである。傷病者が症状を示したときに急速冷却を開始する必要がある。専門家のコンセンサスに基づくと、直腸温が40.5℃を超える場合、最も迅速に急速冷却を達成するため、利用可能であれば冷水浸漬冷却を行うべきである。
これは、最も迅速に冷却するため、傷病者を氷水(10℃の水温を維持するのに十分な氷が入っている)の浴槽に入れ、首から下まで水中に浸した状態で行う。この作業には、約189Lの容量の浴槽で一般的に十分であるが、568Lの容量の浴槽を示すプログラムもある。適切な冷却技術により、30分以内に直腸温が38.6℃未満に低下するはずである。他の選択肢としては、氷水で満たされた防水シート (防水シート冷却)の使用があるが、対応者によって水を絶えず撹拌し冷水を動かし続ける。同様の手法として、氷水で満たされた液体不浸透性のボディバッグを使用する方法がある。

現場での他の冷却方法

動脈(頸部、腋窩、鼠径部)の近くに置くアイスパックの使用は長年にわたって教えられており、救急車での数少ない実用的な選択肢の1つである。しかし、この手技は単独で用いると冷却効果はわずかで、できる限り冷却の主要な方法として用いるべきでない。
米国陸軍訓練協議コマンドは、受講者の熱中傷対応計画の一環としてアイスシートを提唱しており、氷水に浸しクーラーに保管した綿シーツを利用する。これは、顔以外はできるだけ素肌にシートを被せ、被せたシートが温かく感じ始めたら新鮮なシートに交換させる。この技術は冷水浸漬ほど効果的ではない。
傷病者を団扇で扇ぐなど気化熱冷却は、冷水浸漬よりも体温低下が著しく遅いようである。また、気化熱冷却は、高湿度の状況では効果が低くなる場合がある。
冷却した静脈内輸液が急速冷却に役立つ思えるかもしれないが、この分野の研究は限られている。健康なヒトボランティアを対象とした小規模な研究では、4℃の冷却食塩水を用いると、深部体温が30分後にわずか1℃低下したにすぎなかったが、他の冷却法と併用すると傷病者の転帰を改善する可能性がある。

病院前EHSプロトコールに関する考慮事項

EHSの急速冷却の重要性を考慮すると、救急サービスプロトコールは、器具が現場で利用可能であれば搬送よりも冷水浸漬を優先するべきである。NAEMSPとNATAは、ともに「冷却が第一、搬送が第2」のアプローチを推奨している。救急部門は除染室のような従来とは異なるケア区域で冷却をする必要があるかもしれないので、特に現場で冷却ができない場合は、受入病院とのコミュニケーションが不可欠である。救急提供者は低血糖や低ナトリウム血症など、虚脱や錯乱を引き起こす他の要因に注意する必要がある。

労作性熱中症の予防

高温多湿の状況下では、EHSのリスクが増大する。大きな集まりやスポーツイベントで活動する医療提供者は、作業/休息の周期、安全性の発信、休息/睡眠施設、冷却装置(腕浸水冷却装置など)の準備が適正かどうかイベントの方策を評価し、適切なEHS対応器具が準備できているかを確認する必要がある。熱指数または湿球黒球温度(暑さ指数)は、熱関連疾患のリスクを把握する上で役に立つ。

結論

EHSは、タイムリーに認識できれば、病院前に効果的に管理できる。アスリートが身体活動を行った後、中枢神経系(CNS)障害を感じた時はいつでも、高水準の疑いが必要だ。対応者は、気候があまり暑く感じない、中枢神経系障害は軽度である、または傷病者の皮膚は触れても熱くない場合、誤って安心する可能性がある。EHSの管理プロトコールを作成する際には、スポーツトレーナーなどの現場の医療提供者を組み入れ集学的なアプローチを取るべきである。最後に、救急サービス機関は、地方の運動センター、スポーツイベントおよび軍事訓練の場で、直腸体温計や冷水浸漬器具などを確実に利用できるような対策を講じる必要がある。

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