EMSニュース No.92

Journal of Emergency Medical Services 2022/4/1掲載
国際病院前医学研究所文献レビュー、2022年4月抜粋
目次

1.自動車衝突事故、4つの救出方法において脊椎の動きを評価する

Nutbeam T, Fenwick R, May Bら、Scandinavian J Trauma Resusc Emerg Med 30, 7 (2022年、イギリス)

動車衝突事故(MVC)は、世界中の全ての救急医療サービスにとって一般的に見られる。これらの衝突から発生する外傷は、搬送を必要としない軽傷から、救急医療チームによる積極的かつ迅速な介入を必要とする全身の外傷まで、多岐にわたる。近年、頚椎カラーと組み合わせた短いまたは長いスパインボードを用いる脊椎固定の古い伝統が効果的でないことが示され、世界の多くの地域で中止されている。代わりに、選択的脊椎運動制限が適用されている。
本研究の著者らは、健常ボランティアを用いて、車両から救出中の脊柱運動量の実証を試みた。著者らは、4種類の救出状況、自力脱出、ルーフ除去救出、Bピラー除去救出および迅速サイドドア救出を検討した。自力脱出を除く全例で、手動で安定化を行い、スティフネック頸部カラーを適用し、ボランティアを長いバックボード上に押し出した。目的は、頚椎と腰椎の両方の動きが最も少なかった手法を同定することであった。脊椎の動きは、標準生体計測装置を用い決定した。副次的目的は、上記の救出過程に必要な時間を評価することであった。100kg以下の健常ボランティア6名、男性3名、女性3名が試験に参加した。
試験期間中に計230回の救出を実施した。脊柱の移動量が最も少なかったのは、被害者による自力脱出の場合であり、最も速い方法でもあった。他の3つの手法は、頸椎の動きが類似しており、有意に多かったが、3者の間に統計的な差はなかった。
著者らは、「迅速、Bピラーおよびルーフ除去の救出タイプは、事前に準備された車両であったため、類似した(脊椎)動作および救出までの時間であったことに関連した。自力脱出が可能な傷病者は、これが優先される脱出方法である。自力脱出が不可能な傷病者では障害物を除去した後に、最も迅速な救出方法を用いるべきである。」と結論した。
本研究は、介助または補助なしにかかわらず、自力脱出が自動車衝突の場面での有効なテクニックであることのさらなる根拠を提供している。衝突場面は複雑で複合的な環境であり、常に変化する変数を考慮しなければならない。著者らが指摘したように、自力脱出ができれば、自動車から傷病者を移動させる最も迅速かつ安定した方法である。重症外傷を受けておらず、意識があり指示に従うことができる傷病者では、自力脱出がうまく機能するが、そうでない場合は、他の技術を使用する必要がある。この研究では、自力脱出以外の、他の方法間で頸椎の動きに統計学的な差は見られなかった。自力脱出が不可能な場合、救急サービスおよび救助担当者は、脊椎の運動制限も維持し、利用可能な最良かつ迅速な技術を選択すべきである。車両からストレッチャーへの移動の用具の使用は、地域の医療活動と状況の両方によって定義される必要がある。たとえ、多くの救急サービス機関がショートまたはロングのスパインボードの使用をやめたとしても、これらの用具は依然として、傷病者の救出から搬送において、中間的な用具としての役割りを果たす可能性がある。

2. 大腿骨遠位部と、上腕骨または脛骨IO(骨内注入)との比較

Rayas E, Winckler C, Bolleter Sら(テキサス州)、Resuscitation、2022/1;170:11-16.

骨内注入(IO)は、時間に注意が必要な重要な状況下では、薬物を投与するのに、効果的で信頼の高い方法である。American Heart Association (AHA/アメリカ心臓協会)は、静脈アクセスが容易に得られない場合に薬物のIO投与を推奨している。IOは、以前にAHAが推奨した気管内経路よりも良好な薬物吸収率を有する。また、IOは、初回試行成功率が高く、小児から高齢者まで、あらゆる傷病者に使用できる。IOアクセスのための最も一般的な位置は、近位脛骨、近位上腕骨および胸骨である。IOを心臓に近づければ近いほど、より早く薬物や輸液剤を全身に送り出すことができるということは理にかなっている。心停止中、胸骨IOアクセスは胸骨圧迫を中断することなく実施することは困難である。上腕骨近位部についても同様である。上腕骨IOの配置の目印を得るために、施術者は、通常、ターゲットの腕を肘で外転させ、胸部/腹部を横切って配置し、上腕骨近位部の結節および外科頚の直下を触診しやすくする。これも胸骨圧迫を中断する可能性がある。
2016年、テキサス州のサンアントニオ消防署(SAFD)の医療ディレクターは、大腿骨遠位部にIOを留置するために、全ての実施者を訓練し、その部位を 院外心停止のプロトコルに含めた。SAFD救急サービス・プロトコルでは、救急救命士と一次救命実施者の両方が院外心停止のためにIOを配置することができる。IOルートは成功率が高く、アクセスの速さから、SAFDの院外心停止の優先アクセスポイントとなっている。本研究は、成人院外心停止に対する追加IO部位としての、大腿骨遠位へのアクセスの有効性の後ろ向き調査であった。IOアクセスポイントの選択は、提供者の裁量に委ねられている。
2018年12月末までの24ヵ月間で、18歳以上の傷病者に2016件の院外心停止があった。小児傷病者、IOアクセスを試みられなかった傷病者、SAFDの到着時に明らかに死亡していた傷病者は全て除外された。IOアクセスに利用された部位は、大腿骨(888)、上腕骨(594)、脛骨(534)であった。大腿骨部位の選択は、2017年から2018年にかけて2.5倍に増加し、同時に上腕骨の使用が減少した。SAFDシステムプロトコルで許可されているとおり、IOの配置のほぼ50%は、BLS提供者によって行われた。脱落率は大腿骨IOが10%、上腕骨部位が16%、脛骨部位が15%であった。3部位で輸液量に統計学的な差はなかった。
著者らは、大腿部IO部位は成人の院外心停止における血管アクセスのための実行可能な選択肢であると結論づけた。また、使用機器の「適応外」使用方法であることも認めた。小児蘇生のための十分に立証され研究された部位であるが、成人の院外心停止における大腿部IOアクセスの長期的利益を明らかにするためには、転帰調査を含む追加研究が必要である。

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