EMSニュース No.98

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病院前の出血蘇生法の調査

アンジェラ・リゼフスキー(医師助手、元衛生兵)による
JEMS 2022/11/22 掲載

挫民間人に止血のトレーニングを施す方針は価値あるものだが、それだけでは不十分である

序文
外傷は米国で45歳未満の主要な死因であり、全世界では、外傷による死亡の3分の1以上を出血が占める。全血、赤血球、新鮮凍結血漿、およびトラネキサム酸(TXA)の適切な投与およびタイミングは、医学文献においてしばしば議論の的となる。全国的に病院前の出血蘇生法の実践にはばらつきがある。米国の地方に住む傷病者の多くは、タイムリーに外傷センターを利用できず、出血に関連した死亡の約半数は、傷病者が外傷センターに到着する前に発生する。転帰を改善するために、病院前の出血蘇生の最善の方法を明らかにする研究が必要である。本稿の目的は、病院前の出血蘇生プロトコルを調査し、最善の方法を特定することである。

方法
PubMed(生物医学・生命科学の文献、検索サイト)検索を、病院前出血、ショック、大量輸血およびダメージコントロール蘇生という検索用語を用いて行った。これらの調査結果は、損傷制御蘇生のためのJoint Trauma System (JTS)臨床診療ガイドライン(CPG)と比較し、 20の論文を選択し本調査の基礎とした。

考察
2019年、エマージェンシーメディカルサービス誌(JEMS)は米国の救急医療サービス管理者を対象に調査を実施した。22名の回答者のうち81%が、晶質液を制限することでより良好な転帰が得られるというエビデンスにも関わらず、晶質液を病院前の出血性ショック管理に使用していると報告した。
ハシュミらは、外傷における病院前の血液製剤輸血の強いエビデンスと、この資源の使用率が全国的に低いことに言及している。
2019年には、300万人を超える成人外傷傷病者のうち、病院前で何らかの血液製剤の投与を受けたのはわずか0.01%であった。
晶質液は、外傷性出血の蘇生傷病者には好ましくない。大量輸液は、より高い死亡率、および凝固障害、心機能不全、急性呼吸困難症候群、コンパートメント症候群、多臓器不全、低酸素血症の発生率の増加など、転帰の不良と関連している。
低血圧の容認は、外傷性脳損傷(TBI)のない傷病者に対して、ダメージコントロール蘇生プロトコルで用いた場合、晶質液蘇生よりも良好な転帰を示す。2018年の調査では、標準的な蘇生法と比較した場合、低血圧の容認は出血性ショック傷病者に延命効果をもたらす可能性があることが明らかにされた。2018年の別の調査では、生理食塩水による従来の輸液蘇生ではなく、低血圧の容認で治療した出血性ショック傷病者において、死亡率の低下と急性呼吸困難症候群および臓器機能不全の発生率の低下が認められた。
Trauma Hemostasis and Oxygenation Research (THOR)Networkは、病院への搬送時間が受傷地点から60分を超える場合、遠隔損傷制御蘇生(RDCR)プロトコルを使用することを勧めている。可能であれば全血を優先した血液製剤による蘇生を推奨し、収縮期血圧の目標を100mm Hgとするよう助言している。低血圧の容認は、安全と考えられる時間を示唆するエビデンスがないため、搬送時間が最も短い傷病者に最も適していると考えられる。
入院前の濃厚赤血球輸血のみでは、出血性ショックを伴う外傷傷病者の死亡率の改善とは通常関連しないが、ガレットらは、病院前の空輸搬送での赤血球輸血の方が晶質液よりも死亡率に有益であると指摘している。病院前の血漿と赤血球輸血は、(赤血球、血漿、または晶質液の単独の場合とは対照的に)出血性ショックの危険性がある傷病者に対して、長期間の死亡率の有意な向上など死亡率に最も効果的であることを示している。
30年分の調査において、リンジョートらは、病院前の血液製剤投与は安全であると判断した。同博士らは、より質の高いエビデンスが必要であると報告しているものの、病院前の状況で濃厚赤血球と血漿の両方を投与された傷病者に長期死亡率の最大の減少が認められた。アフガニスタンでの米軍の研究では、戦闘傷害や出血性ショックを起こした兵士の、受傷後数分以内の病院前血液製剤輸血により、24時間および30日生存率が改善したことが明らかになった。
米国の病院で使用されている現在の外傷プロトコルの多くは、軍医学から得られたエビデンスに基づいて作成されており、戦場で外傷を治療する過去20年間を通して学んだ教訓が適用されている。JTSガイドラインのダメージコントロール蘇生では、出血性ショックの傷病者に対して、外傷後30分以内に全血を輸血することを優先的に勧めている。全血が利用できない場合、次に望ましい輸血の組み合わせは、血漿、濃厚赤血球、および血小板を1:1:1の比率で、次いで血漿および濃厚赤血球を1:1の比率で用いる。これらが利用できない場合は、次に血漿または赤血球のみが望ましい。
JTSガイドラインでは、晶質液の投与を制限し、トラネキサム酸(TXA)をできるだけ早く投与することを推奨している。損傷から3時間以上経過した場合、TXAを回避するよう助言している。CRASH-2試験では、損傷から3時間以内に投与した場合、TXAで治療した重度出血の傷病者の死亡率に対する利益が実証され、より早期の投与が最大の利益を達成した。
カリフォルニア州病院前抗線維素溶解療法(Cal-PAT)研究でも、救急救命士がTXAを野外または搬送中に投与した場合、出血性ショック傷病者の延命効果が実証された。ニーキらは、TXAを一般市民のプレホスピタルケアで実施することができれば、転帰を改善し続ける可能性があると推奨している。これらの知見は、民間病院前TXA投与は、とくに搬送時間が遅れた場合、重度の出血性外傷傷病者に対して考慮されるべきであることを示唆している。

結論
本レビューから、外傷性出血の病院前蘇生の晶質液投与の役割は限られていることが示唆される。TXAおよび血漿は、病院前で普遍的に実施されれば、外傷性出血傷病者の転帰を改善することが研究により示唆されている。入院前の全血、すなわち濃厚赤血球と血漿を一緒に投与すれば、出血性ショックの傷病者にとって最大の延命効果が得られる可能性があり、救急医療サービスのシステムの能力に基づいて優先されるべきである。
出血性ショックに対する多くの介入には時間的制約を受けるため、病院前の出血蘇生と介入のための最善の方法は、予想される搬送時間に基づいて実施されるべきである。病院前の血液製剤の使用は、米国の農村部や搬送時間の長い外傷システムに最大の利益をもたらす可能性がある。外傷性出血傷病者のための病院前蘇生における全血および血液製剤の使用に関する質の高いエビデンスを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

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