骨盤骨折を救助する
骨盤固定装具(PCCD)の救急隊での使
JEMS Dec-2 2014, P. Clinical Management of Deadly Pelvic Injuries 並びに EMS1 News : Feb-5 2013 : A Intergrated Review of Pelvic Binders as A Practice (The risk of treating can be significant if you have equipment and don’t use it)より抜粋
骨盤骨折:
米国の民間EMSプロヴァイダー(救急の現場で処置を行う人)は鈍傷性の骨盤損傷患者をケアする機会が多く、外傷ケアプロトコルは骨盤固定装具(PCCD=Pelvic Circumference Compression Device)の装備を義務付けている(*1)。米国では毎年、骨盤骨折が骨格損傷のうち約3%を占め、外傷で入院した患者の9%に及ぶ。これらの損傷は軽傷から急速に生命を脅かすものまでさまざまで、全体の死亡率は10~16%になる。骨盤輪の損傷は高所からの落下とか自動車/バイク事故などで発生する。15歳から28歳に最も多く、高齢者においては地上レベルでの転倒などマイナーなメカニズムでも発生する。骨盤骨折に伴う出血による死亡率はオープンブックの場合は45%にも達する。現在では、素早く簡単に、自動的に一定した締め付け張力を与える骨盤固定装具(PCCD)(*2)は病院前外傷ケアのスタンダードである。
ところが、 時として受傷者がPCCDを装着されずにERに搬入されることがある。それによって、我々はリスクに曝されているのではないだろうか?
職務怠慢:
受傷時にその場で、ERへの搬送前「ゴールデンアワー」内にEMSプロヴァイダーはPCCDにより受傷者の骨盤輪を固定できるのだ。 仮に受傷者が骨盤輪を損傷していると思われるのに、骨盤輪を固定せずそのままでERへ搬送し、その途中で重症に陥ってもEMSプロヴァイダーは責任を問われないだろうか? 骨盤骨折が疑われ骨盤損傷の悪化が予測されるときに、PCCDを装備しながら、プロヴァイダーが規定された義務を遂行しなければ、それは職務怠慢であり義務不履行と見なされる。このような違反行為は受傷者のさらなる損傷を惹起する。さらにプロヴァイダーに留まらず、所属するEMS全体の責任を問われることにもなる。この原則は骨盤固定にだけに当てはまるものではない。プロヴァイダーは常にアップデイトされたインフォーメイションに基づきプロトコルを順守して、受傷者のみならず自分と上司とEMS組織を守らなければならない。
骨盤骨折に伴う出血と合併損傷:
骨盤損傷の最も恐ろしい合併症は、後腹膜腔に向かう急速かつ大量の出血である。骨盤出血の80-90%は静脈の損傷によるものと判明している。さらに、骨盤骨折の20%までが血行動態不安定を起こす可能性があり、骨盤骨折で入院した患者の1/3以上に輸血が必要になっている(*3)。内部出血は骨盤損傷後24時間以内に起こる死亡の主因である。四肢の出血など外部の出血と比して、救急隊員が骨盤損傷を診断することは難しい。したがって、救急隊員はプレホスピタルで骨盤損傷の強い疑いを常に持つことだ。最初に疑いを持つことが、タイムリーなトリアージと治療に繋がる。
搬送とその他の管理ポイント: PCCDは正しく大転子の真上に装着すること。さもないと、固定効果を損なう可能性がある。また、受傷者をバックボード類に載せる際に、ローリングするのは可能な限り避けるべきだ。骨盤骨折と関連した組織の損傷は信じられないほど痛い。骨盤の安定化は痛みを抑える。搬送中にプロヴァイダーは、隠れていた損傷や出血の新たな兆候がないか、常時受傷者を再評価することが重要だ。