出血のコントロールから、その先へ
研究によれば、止血は始まりに過ぎない
ショーン・J・ブリトン(ニューヨークメディカルカレッジ・助教授)著
JEMS 2018/6 掲載
挫民間人に止血のトレーニングを施す方針は価値あるものだが、それだけでは不十分である
銃乱射事件報道の頻度が増すにつれて、アメリカの街路、ショッピングセンター、学校、職場などの身近な日常生活の場に戦場があるかのように思える。正確な比較にはほど遠いが、銃乱射で発生する怪我は戦場で見られる負傷に似ているようだ。そして銃乱射事件の被害者をケアする方法は、最近の戦場での体験に多くを学んでいる。しかし、怪我のパターンは実際に同じだろうか。
方法:
この研究では、1984年から2013年に発生した銃乱射事件について得ることのできたデータから遡及調査を実施した。25件の民間銃乱射事件からデータの取得を試み、139人の受傷者を含む12件の事件からデータを入手することができた。
負傷の解剖学における方向を決定するために、全症例を検討した。死亡を引き起こした負傷の解剖学における方向の決定は、115例で可能だった。
125例で、プレホスピタルおよび病院到着後に適切な処置がなされた場合に、生存可能であったかどうかの検討が行われた。
結果:
研究者らの計算によると、犠牲者は1人当たり平均2.7カ所負傷していた。「頭と胸部/背中上部が、最も頻繁に関係のあった身体的領域で、58%の被害者の頭部、胸部/背中上部に少なくとも1カ所に、負傷があった」と述べた。
次に多かった負傷の領域は、四肢(20%)、腹部/背中下部(14%)、顔/首(9%)の順だった。被害者の56%は、複数の身体的位置に傷があった。
この研究の著者らは、125人のうち9人(7%)の犠牲者が、生存可能な負傷を受けていたと判断した。これらの受傷者の傷は拳銃かショットガンによるものであり、生存可能な負傷のどれも、高速度のライフルによるものではなかった。
9人の患者には、頭部の創傷や、失血死に至るような四肢の出血がなかった。研究者はさらに、気道確保と胸部の負傷、特に緊張性気胸の処置が、民間の大量乱射事件での死亡率削減に、最も効果的な対応の方法であろうと述べた。
ディスカッション:
過去数年間にわたる軍事経験は、民間の外傷治療、特に暴力による負傷の治療に大きな影響を及ぼし、進歩させた。著者らは、民間銃乱射事件の犠牲者は戦闘で負傷した兵士とは異なる負傷のパターンを示し、民間銃乱射事件で発生する負傷の方が致命的で、生存可能な傷が少ないことを明らかにした。
研究者らは、戦闘中の兵士と較べて、民間人の方が物理的に攻撃者に近いことを指摘し、さらに民間人が防弾服を着用していないため、怪我のパターンが異なるとした。
著者らが指摘したこの研究の限界の1つは、研究が剖検および検死官のデータに基づいて行われたため、12の事件の被害者で生存した176人の怪我については何もわからないことだ。生存者の中には、四肢の出血が効果的に制御されて命を取り留め、犠牲者にならずに済んだ人がいる可能性もある。
結論:
著者らの結論によると、止血のトレーニングを民間人に施す方針は価値があるものの、それだけでは十分ではない。一般人に対する教育には、「負傷者がさらに負傷を重ねることから防ぐ方法、簡単な気道の管理方法、胸部の穿通性外傷による呼吸機能低下の認識と対処、負傷者に取らせる適切な姿勢、負傷者の効率的な移動、および低体温症の予防を含む必要がある」という。
この研究は銃乱射事件に対応するために、救急医療機関が一般人の教育を続けることを強く勧め、止血以上のトレーニングが必要であることの根拠を示している。