MCI(多数死傷者事件)の傷病者をトリアージするためのSALTの使い方
EMS1 2021/4/28掲載
ロム・ダックワース,BS(学士), リッジフィールド(コネチカット)消防署の救急医療EMSコーディネーター 著
生命の脅威を正確なトリアージによって、確実な治療に向け、傷病者を移動させ続けることが、多数死傷者事件における救急救命の成功の鍵である
SALTは、最初の対応者が大量の死傷事故を管理するための4段階のプロセスであり、次の略語である。
- Sort:ソート
- Asses:評価する
- Lifesaving intervention:救命処置
- Treatment and/or transport:治療および/または輸送
SALTは、CDC(疾病対策予防センター)が後援するプロジェクトの一環として全米救急医師協会により、多数死傷者管理の標準ガイドラインを作成することが提案された。現場で利用できる明確で簡単なステップで構成されている。
指揮・管理体制を確立する
SALTの核心は、医療提供者が、事件現場から安全に傷病者を処置できるリソース(人材・資材)へ、優先的に傷病者を移動させる考え方である。SALTを機能するには、まず多数の死傷者事件と断定し、宣言しなければならない。MCI担当者は、発生現場から傷病者を遠ざけ、移動させる。まず傷病者を負傷者集合地点へ移動させる。この場所は、治療エリアや受入れ施設への移動のために、傷病者を分類し優先順位が付けられるより安全な場所である。指揮・管理体制が確立されれば、トリアージタグやMCI資材を急いで手に取り、発生現場へ向かう。
ウォーカー、ウェーバー、スティルの分類
グローバルな分類法を用い傷病者に迅速に優先順位をつける。
「指定された安全な場所に移動してください。私たちが手助けします。」と、場内放送システムまたは拡声器で知らせる。強く、大きく、明確に視覚的に口頭で指令を与える。最初に反応した人は、評価する最後の傷病者であるが、より重度の傷病者を前方へ移動させるのを補助できるかもしれない。これらの傷病者はウォーカーである。
そのまま残っている傷病者には、「助けが必要な場合は、腕を振るか、脚を動かしてください。できるだけ早く手助けします。」と言う。指令に従うことができるが、自分では動けないこれらの傷病者は、ウェーバーであり、評価の2番目の優先である。
じっとして(スティル)、動かず、反応しなかった人は、おそらく評価と処置をする最初の傷病者である。
アセスメント/救命処置
SALTシステムでは、評価と救命処置は繋がっている。SALT評価では、橈骨動脈拍動や呼吸数の計測はなく、単純な「はい」と「いいえ」の質問にのみ答えていく。評価し、生命の危機があった場合には、1分もかけず、救命処置を行う必要がある。たとえば、大量出血の傷病者を見つけた場合には、ターニケットで迅速な出血制御を行う。もし、傷病者の気道が閉じていれば、開通させる。傷病者が小児または乳児の場合は、2回呼吸を行うことを考慮する。もしあなたがALS提供者であれば、投与に1分もかからず、傷病者と一緒にいる必要のない、ニードル減圧、自動注射器化学毒素解毒剤などの救命処置を行うことが適切な場合がある。傷病者が救命処置を必要とし、その処置を行う準備ができていれば、すぐに行い、次の傷病者に移る。傷病者は、負傷者集合地点に進み、次に治療地点に進み、最終的には受入れ施設へ搬送しなければならない。
あなたが評価と救命処置をする際には、傷病者を優先順別に分類し、タグ付をする。SALTのトリアージは次のように行う。
DEAD死亡(黒のトリアージテープまたはタグ)
生存と不適合あるいは自発呼吸の無い負傷者は、死亡とトリアージされる。
- 成人傷病者は気道の確保後、呼吸をしていない
- 子供は気道を確保し、2回呼吸を行った後に呼吸をしていない
死亡とタグした傷病者は、受傷地点から負傷者集合地点へ前進しない。
IMMEDIATE直ちに(赤色のトリアージテープまたはタグ)
重度の損傷を受けたが、緊張性気胸の傷病者など処置により救命の可能性が高い傷病者
- 傷病者の末梢に脈拍があるか?
- 傷病者は呼吸窮迫状態ではないか?
- 出血は制御されているか?
- 傷病者は指令に従うか、意図的に動くか。
これらの質問のいくつかに「NO」と答えても、現場対応者が、利用可能なリソースを考慮し傷病者の生き残る可能性が高いと判断すれば、その傷病者にIMMDIATEタグをつけるべきである。
Immediate傷病者は負傷者集合地点へ進ませる。
EXPECTANT待機 (灰色のTRIAGE TAPE またはTAG)
脈拍、呼吸、出血、精神状態に関する質問のいくつかに「NO」の答えで、利用可能なリソースを考慮すると傷病者が生存する可能性は低いため、傷病者にはExpectantのタグを付ける必要がある。これらの傷病者は、Immediate傷病者が前方に移動した後にのみ処置を受ける。
たとえば、脳内物質が露出した頭部外傷、頸動脈出血、全身表面積の90%に達する熱傷など。
DELAYED遅延(黄色のTRIAGE TAPE または TAG)
最終的には最終的治療のため前方移動が必要となるが、直ちに前方移動や処置をしない、長管骨骨折のような重傷を負った傷病者には、Delayedタグをつける。傷病者がDelayedであるかどうかを判定するために、以下を評価する:
- 傷病者の末梢に脈拍があるか?
- 傷病者は呼吸困難状態ではないか?
- 出血は制御されているか?
- 傷病者は指令に従うか、意図的に動くか。
これらすべてに対して「YES」の反応がみられるが、長骨近位端骨折などの損傷の傷病者にはDelayedタグをつける。
MINIMAL軽微(グリーントリアージまたはTAG)
脈拍、呼吸、出血、精神状態についての同じ質問すべてに「YES」であるが、傷病者の損傷は軽微で、小さな擦過傷や裂傷、傷病者にはMINIMALのタグをつけるべきである。
ほとんどのMINIMALの傷病者は、ウェーバー・スティル・ウォーカーに分類される間に前方へ移動したはずである。残っていたMINIMALの傷病者は前方へ進むのが最後であり、他の傷病者を処置や搬送のために前進させるときに、役に立つ可能性がある。
処置と輸送
傷病者はSALTの過程でタグを受け取ると、負傷者集合地点に進む必要がある。傷病者はそこから治療区域に進み、最終的には受入施設への搬送のために救急車へ移動する。
治療区域は、対応するEMS(救急サービス)機関からやってくる全ての人員や器材の目的地である。また、受け入れ施設へ向けて搬送するまで、傷病者が一時的に待機する区域でもある。