2024/8/31 第4回日本病院救急救命士研究会(曳舟文化センター レクリエーションホール)

EMSニュース No.81

国際環境研究公衆衛生機関誌、2017年1月

骨盤外傷が疑われた場合の救急処置における早期骨盤バインダー使用の効果

Sheng-Der Hsu ら(防衛医療センタートリサービス総合病院外傷外科 台湾)

骨盤外傷疑いの救急管理における早期骨盤バインダー使用の効果を、比較し評価することを目的とした。
骨盤外傷を疑った場合に骨盤バインダを用いて早期安定化を行った外傷傷病者を対象とした。

序文

骨盤損傷はしばしば他の生命を脅かす損傷と併発するため、骨盤損傷の正しい診断が極めて重要である。しかし、現在のところ、骨盤損傷の管理のあらゆる側面について普遍的なコンセンサスは得られていない。
鈍的外傷による多発外傷傷病者では、5~16%が骨盤輪の損傷を負い、主に出血性ショックによる死亡率は11~54%とされている。したがって、骨盤骨折を管理する際には、関連する出血をコントロールすることが重要である。

資料データおよび方法

2013年8月~2014年7月に当院に入院した傷病者を選択した。選択基準は、外傷性損傷と、1)意識消失またはGCS13未満、2)収縮期血圧が90mmHG未満、3)6m以上からの転落、4)複数の重要臓器の損傷、5)骨盤創傷の疑いの、いずれか一つ以上を満たすものとし、新しいプロトコールに従い、骨盤損傷が疑われる外傷傷病者に対し骨盤バインダー(サムスリングⅡ)を早期に使用し、放射線画像検査で骨盤骨折が確認された56例を対象とした。
今回、2011年1月~2013年7月の間に骨盤骨折が臨床的または放射線学的に確認された後に骨盤バインダーを適用した148例を対照群として比較した。

結果

早期に骨盤固定具を装着した骨盤骨折が疑われる傷病者は、早期に骨盤固定具を使用しなかった傷病者よりも生存率が有意に改善したが、この傾向は統計的有意には達しなかった。
それぞれ、生存数/生存率、51例/91.7% 対131例/88.81%であった。
これら2群間に統計学的有意差はなかったが、骨盤固定具で最初に安定化した骨盤骨折が疑われる外傷傷病者は入院期間およびICU滞在期間が短かった。
それぞれ、16.11±12.54日対19.55±26.14日および5.33±5.42日対8.36±11.52日であった。
AIS、低血圧、骨折分類は、骨盤骨折が疑われる傷病者が早期に骨盤固定具で安定化された傷病者で、より重度であった。
しかし、平均輸血量は、骨盤バインダーで早期に安定化された傷病者のほうが有意に少なかった。
それぞれ、2462L±2215L対4385±3326Lであった。

考察

骨盤輪骨折は全骨折の約3%を占め、骨盤損傷は他の生命を脅かす損傷と併発することが多く、血胸・心タンポナーゼ・胸腔内出血など他の生命を脅かす損傷の区別後、骨盤バインダーの使用など、骨盤の安定化に非侵襲的な方法を用いる必要がある。
骨盤の安定化は骨盤容積を減少させ、静脈出血のタンポナーゼを促進し、二次出血に繋がる骨の動きを防止する。
しかし、圧迫により軟部組織または皮膚の損傷を生じる可能性があるが、われわれの研究のこの2群での比較では、骨盤バインダーが皮膚の壊死を引き起こす可能性があったのは一部のみであった。(早期使用で1例/56例、確認後使用で2例/148例)
骨盤の安定化は、外科的介入または血管造影前に骨盤に対する機械的安定化および骨盤骨折に対する血行動態的安定性を維持し、回復させると報告されている。骨盤バインダーは費用対効果が高く、非侵襲的なツールであり、救急外来の蘇生期間での医師や病院前での救急救命士の使用が可能である。確実な救急処置を受けるための血行動態の不安定な傷病者を支える橋渡しとなり得る。

結論

適用の容易さ、比較的安価な費用、合併症の可能性が低いこと、骨盤の安定性は有益であることから、骨盤損傷の確定的な同定および特性判別に先立って、頸椎カラーを使用して頸椎をさらなる損傷から保護するのと同じように、決定的な画像診断が得られる前に骨盤損傷が疑われる場合は、骨盤バインダーを早期に使用することを推奨する。

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