EMSニュース No.106

Journal of Emergency Medical Services 2023/12/1掲載
目次

(1) 民間および軍事環境におけるターニケット使用後の転帰に対する時間と距離の影響:スコーピングレビュー

Joarder M, El Moussaoui HN, Das, A, et al.Joarder M, El Moussaoui HN, Das, A, et al.

(*スコーピングレビューは「既存の知見を網羅的にマッピングし、ガイドラインに沿って整理し、既存または新たな文献群を特定し統合する。さらに、研究が行われていない範囲(ギャップ)を特定する。)

過去20年間で、動脈ターニケットの使用は、病院前の環境において重大な出血をコントロールするための重要な介入として再浮上してきた。それ以前は、直接圧迫、四肢の挙上、圧迫点の圧迫など、他のすべての選択肢が失敗した極限的な状況でのみ、ターニケットが考慮されていた。市販のターニケットがほとんどなかったため、救急救命士の学生たちは、三角巾と太い木材ピンや棒を使って即席でターニケットを作るよう教わることが多かった。イラク戦争とアフガニスタン戦争の初期の経験から、戦場での 出血を抑えるには、市販のターニケットが有効であることが証明され、やがて 市販のターニケットが民間救急にも使われるようになった。ほとんどの軍隊では、負傷した兵士は血管損傷に対応できる医療施設に迅速に避難する。民間救急の多くは都市部や郊外で行われ、外科手術までの搬送時間は比較的短いが、農村部や辺境の環境では、最終的な治療への搬送が数時間遅れる重傷者もいる。このような状況でのターニケットの使用に関する知見はほとんどないため、本研究は、長時間のターニケット使用に関する理解とのギャップを解決するために計画された。

この分析のために、ジョーダーらは適切な文献のスコープレビューを行った。システマティックレビューが、明確に定義され再現可能な方法を用いて特定のトピックに関する医学文献を要約し、論文を検索し、批判的に分析し、データを要約するのに対し、スコーピングレビューは、より大規模で多様な文献を統合することを目指す。著者らが答えようとした主な研究課題は、”民間および軍隊でのターニケット使用後の代謝性合併症と出血コントロールに対する時間と距離の影響は何か?”であった。

研究の対象基準として、以下の基準をすべて満たす必要がある:
●損傷のメカニズムが説明されている、急性四肢外傷後にターニケットを装着した任意の年齢の傷病者
●任意の時間または距離において、即席または市販のターニケットを装着した傷病者
●民間および軍隊の両方の環境において全ての場所で実施された研究
●査読付き学術雑誌に掲載された全文記事、対照試験、症例シリーズ、症例報告を含むオリジナル研究

救急部以外の病院でターニケットが装着された研究、抄録やレターとしてのみ発表された研究、ウェブサイトで発表された研究は除外した。重複する研究を除外した後、最初に2人の著者が個別に論文をスクリーニングし、組み入れ基準を満たしているかどうかを確認し、さらに2名の査読者が矛盾点を解消した。最終的な適格性を決定した後、研究者らがデータを抽出した。

31件の症例報告、13件の症例シリーズ、38件のレトロスペクティブ観察研究、4件のプロスペクティブ観察研究で構成され、合計86件の論文がレビューに含まれた。文献検索では対照研究は確認されなかった。これらの研究には、12,286人の傷病者に対するターニケットの装着が含まれ、民間の環境に関する研究が55件、軍の環境に関する研究が32件、両方の環境を含む研究が1件であった。軍での研究の大半は中東での経験によるものであったが、民間での研究で最も一般的な舞台は北米であった。軍の研究では、爆風による負傷が最も多く、次いで貫通外傷であった。民間研究では、貫通外傷が最も多く、次いで鈍的外傷であったが、動物による咬傷や爆風による損傷も含まれていた。距離、病院前の時間または止血時間は66の研究で記録されており、その内訳は、止血時間の平均が2時間以下の研究が51件、2~4時間の研究が4件、4時間以上の研究が10件であった。ターニケット装着の有効性は38の研究でのみ記されていた。四肢救済のデータは59の研究から得られた。全体の四肢救済率は69.6%であったが、虚血時間が長くなるにつれて四肢救済率は低下する傾向にあった(2時間未満、83.1%;2~4時間、81.3%;および4時間以上、57.1%)。44の論文で動脈損傷が、3つの論文で単独の静脈損傷が報告されているが、39の研究では血管損傷の有無に関する十分な情報が報告がなされていない。

死亡率データは、9108人の傷病者を含む74の研究から得られた。全体の死亡率は6.7%であった。興味深いことに、最も死亡率が低かったのは虚血時間が2〜4時間の群で3.0%、次いで2時間未満の群で5.2%、4時間以上の群で7.1%であった。代謝の転帰は86の研究のうち28の研究でのみ報告されており、研究者が重要であるとみなした代謝パラメータをすべて含んでいる研究はなかった。ターニケットの取外しに関する情報は、27の研究から639例の傷病者について入手可能であった。最も一般的な取り外し場所は救急部(131例)および手術室(60例)であったが、276例のターニケットが場所を特定されずに取り外されたと記録されていた。

著者らは、対象基準を満たした85以上の論文を特定したにもかかわらず、止血/虚血時間が2時間を超えた傷病者に関するデータは限られており、主に症例シリーズや症例報告によるものであった。研究者らは、多くの研究が四肢の救命率に関する情報を含んでいたものの、四肢の切断、血行再建の失敗、ターニケット使用の合併症など、切断の正当な理由に関する情報はほとんどなかったことを指摘している。医療介入の前に外傷性切断を受けた傷病者もおり、この問題はさらに不透明である。

この研究の第一の長所は、厳密なスコーピングレビューの方法論と、12,000例以上のターニケットの使用例からなる86件の公表文献が含まれていたことである。著者らは、論文の不均一性や重要なデータポイントの一貫性のなさなど、レビューの限界を明らかにした。残念ながら、この分析では、長時間の搬送環境におけるターニケットの管理に関するガイドラインの作成に貢献できるものはあまり明らかにされなかった。しかし、このレビューでは、ターニケットの装着を研究するための標準化されたアプローチの必要性が強調されており、これによりすべての重要な指標が把握され、今後はより情報に基づいた分析が可能となるだろう。

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