挫滅で放出される有害な化学物質の管理
A パリッシュ(EMT-P)、A タゴア(MD)、J L ホーベイン(DO)他4名 著
JEMS 2018/10 掲載
挫滅創から圧迫が除かれると、損傷した組織の細胞成分からあらゆる有害物質が全身に放出され、死に至る場合もある
圧挫症候群(クラッシュ・シンドローム)
クラッシュ症候群は、筋肉組織が粉砕されることによって放出される有害物質に起因する、顕著な全身症状を特徴とする病状である。挫滅創は重度の外傷でよくみられ、柔らかい組織の直接的な破壊、骨の損傷および四肢の虚血を含む。
複数階のビル崩壊における生存者の最大40%がクラッシュ症候群になる。また地震の後の直接的な外傷以外では、挫滅による横紋筋融解が最も頻繁な死亡の原因であることは注目に値する。
通常、損傷領域の再灌流が4-6時間遅れると有害物質の放出が起こる。しかし損傷の重症度および筋肉コンパートメントへの圧迫の程度によっては、放出がわずか60分でも起こり得る。
例えばコンパートメントの内圧がわずか40mmHgでも8時間以上続くと、この症候群を引き起こすことがある。外傷の際に筋肉コンパートメントへの圧力が最大240 mmHgに達することを知れば、この症候群がどれ程素早く発生し得るかは想像に難くない。
一旦筋肉および組織が損傷すると、次々に発生する事象が細胞内容物の流出をもたらす。
挫滅の衝撃が筋細胞膜に直接的、機械的な損傷を与え、ナトリウムおよびカルシウムが放出され、継続的な酵素細胞の破壊と体液の流入が起こる。
体液の流入の結果、血管内の容積(循環系内の血液量)が減少し血圧が低下する。受傷者の四肢がはさまれた状態が続くと、低灌流がさらに悪化し、組織が低酸素症に陥る。
この低酸素症で嫌気性の代謝が余儀なくされ、乳酸の生成が増加する。手足からのさらなる有害物質の拡散は、損傷部位で静脈還流が妨げられるため、損傷部位に局在したままになる。
挫滅創および圧迫の原因が除かれると、損傷した組織細胞成分に由来する有害物質が全て、全身に放出される。この全身への放出で最終的に死に至ることもあるので、挫滅創の可能性がある受傷者の手当てでは細心の注意を払い、早期治療をするべきだ。
挫滅によって放出される主な有害成分は、ミオグロビンおよびカリウムである。腎臓が排出できるよりも速く腎臓にミオグロビンが蓄積すると、腎尿細管細胞を損傷し、急性腎不全に至る。損傷した細胞から漏出するカリウムは、血管内のカリウムを増加させ、致命的な不整脈を引き起こす可能性がある。
損傷した細胞から放出される他の有害物質の例には、乳酸、ヒスタミン、酸化窒素およびトロンボプラスチンが含まれる。乳酸は代謝性アシドーシスを引き起こし、カリウムと同様に心臓性不整脈に至ることもある。ヒスタミンの放出は、血管拡張および気管支収縮を引き起こし、受傷者は息苦しくなり、呼吸困難に至る可能性がある。酸化窒素は血管拡張を引き起こすことによって、血液量減少ショックを悪化させる可能性がある。トロンボプラスチンで、播種性血管内凝固症候群(DIC)に至る可能性もある。
他の数種類の物質も有害で、電解質障害を引き起こし悪影響を与え得ることが判明しており、尿酸、カルシウム、細胞内酵素、ロイコトリエンおよびリン酸がこれに含まれる。放出された有害物質の多くが血管拡張を引き起こすので、毛細血管床からの漏出、浮腫、体液のサードスペースへの流出、および血圧低下の度合いが増す。
血液量減少症および心臓性不整脈を予防するためには、早期の治療が不可欠だ。
受傷者の身体がはさまれた状況によって輸液が不可能な場合、救出の間、静脈へのアクセスが確立されるまで、ターニケットを短時間でも損傷した四肢に使用することを考慮すべきだ。
病院到着前の早いうちに生理食塩水を用いた点滴を施すことは、死を防ぐために非常に重要である。かつて、受傷者が拘束から救出されてわずか数秒後に心停止に陥る、といった例が見られた。早期の心停止の原因には、一般的に前述したような血液量減少、高カリウム血症および重度の代謝性アシドーシスがある。
受傷者が心停止しない場合でも、早期に適切な液体補充処置が施されないと、腎不全、敗血症、急性呼吸窮迫症候群および播種性血管内凝固を含む後の合併症を引き起こす可能性がある。
結論
挫滅創は他とは異なった種類の外傷で、受傷者の手当てには全く異なった考え方とやり方が必要であることを忘れないでほしい。生理学的な悪化が局所的に非常に早く始まることもあるが、四肢または身体部分への圧迫が除去されるまで、全身への影響は見られない。
挫滅創は、自動車事故の場合のように、局所的または中枢の感覚神経中断や損傷によって、非常に発見しにくいこともある。
したがって、損傷の原因となっている外的な力が取り除かれる前に、挫滅創の可能性や程度を評価し受傷者に準備を施し監視をする必要がある。そのためには、できるだけ早く受傷者に近づけるよう、強く要請することが不可欠だ。これが受傷者の突然の死亡を防ぐ唯一の方法である。最悪の事態はこのような状況下では容易に起こり得ることだ。