小児の上肢、エスカレーターの挟まれ事故
救出と現場切断の適応の管理アルゴリズム
デビッド・ウッズ 整形外科医, ユウ・カオ整形外科医, グラディ・イー・マドックス整形外科医, カティア・ストレージイト整形外科医,アレキサンダー・ローダー整形外科医, キロス・アイパクチ整形外科医 著
JEMS 2021/9/21 掲載
背景
米国消費者製品安全委員会による最近の推定値によれば、毎年約11,000件のエスカレーター関連傷害が発生している。これらの90%は転倒によるもので、残りの10%の損傷は足や手の挟まれによるものである。
エスカレーター関連事故の約6%は子供に起こる。2006年に実施した大規模な疫学研究では、0~19歳の子供に年間2000例のエスカレーターによる損傷があり、平均年齢は6.5歳であった。
これまでの小児症例報告では、エスカレーターの乗り口または降り口での「くし状歯」への足の挟まれが報告され、しばしば柔軟性のあるゴム靴のタイプに起因している。本症例報告で提示した手の損傷のメカニズムはあまり一般的ではないが、傷病者は溝のあるステップと「くし」(エスカレーターのくし状の歯の部分)の間に指が挟まれた。救出時、くし状の歯が小指を突き刺していたが、歯を傷病者の手から抜くことができなかった。この症例は、困難な状況での適切な救出プロトコールの理解の必要性を示す。
症例報告
月齢18カ月の男児が、地元の買い物モールでエスカレーターからの長時間の救出後、著者らの施設の救急科に搬送された。子供はまだ指にエスカレーターのくしの歯が刺された状態で到着した。救急隊員の報告によると、エスカレーターの階段が水平になり降りる際、傷病者の手は溝のあるステップに乗っていた。溝のあるステップがくし状の歯に合うと、小さな指がステップの溝と金属のくしとの間に挟まれ、指を金属のくしが突き刺した。これにより、エスカレーターの緊急停止が発動した。救急隊は現場に到着し、くし状プレートから手を外すことができなかった。隊員は、現場で挿管を行い、傷病者の手に刺さったまま、くし状プレートの装置全体を外した(図1)。
救急外来到着時、小指は潅流しているように見え、傷病者を手術室にすぐに搬送し、摘出を試みた。エスカレータープレートのため、X線画像診断は実施できなかったが、くしの歯が中節骨骨折を引き起こしたように見えた。初期評価は歯がフック状であったため、くし状の歯を切断することなく除去できるかどうかは不明であった。幸いなことに、指節骨の骨折のため、潤滑剤として超音波ジェルを用い、注意深く除去できるだけの可動性があった。小指は、処置の間、十分に潅流し毛細血管の血流を維持した。小指は順調に治癒した(図2)。
考察
幼児の挟まれの最も一般的な原因は、子供が落としたものに手を伸ばしたり、エスカレーターの段に座ったりするときに起こる。脚は0~19歳の小児で最も多く損傷を受ける部位であるが、5歳未満の小児では手が最も一般的な損傷部位である。この損傷パターンは、直立歩行が確立されていないことのほか、手のサイズが小さいことから説明でき、階段/側壁とエスカレーターの末端のステップ/くし状プレートとの間などの小さな隙間に挟まれる可能性が高い。
小児のエスカレーター関連損傷約6000例のレトロスペクティブレビューにおいて、エスカレーター損傷に起因する切断は、頻度は低いものの(833/5989)、主に5歳未満の小児に発生したと結論した(71.4%、595/833)。さらに、切断/剥離の86.2%(512/595)は挟まれの結果であり、大部分、92%(548/595)は手であった。小児の切断は、傷病者だけでなく、家族および第一対応者にも、心的外傷をもたらす出来事である。したがって、意思決定を明確にし、転帰を最適化するために、標準化されたプロトコールを用いて運用することが重要である。
現場切断が適応となることはまれであるが、2つの状況で考えることができる:第1は地震のような大規模災害で大きな構造的崩壊によって挟まれが起こる、第2はこの例のような単一傷病者の単独事故である。医療資源の入手の可能性、傷病者へのアクセス、傷病者の医学的状態は、この2つの状況で大きく異なる可能性がある。
どのような状況でもそうであるが、挟まれに遭遇した場合、構造物の崩壊、火災の危険性など、傷病者や隊員に差し迫った危険性について、最初の対応者が事故の現場を査定することが必須である。医学的見地から、安定したバイタルを確認し、損傷について傷病者を評価しなければならない。これと並行して、必要であれば挿管、輸液蘇生、および鎮痛を含む呼吸補助を開始する。
四肢を切断せずに傷病者を救出することができない場合(例:動かせない物体、または急速な救出を必要とする不安定な環境)は、常に野外切断の適応となる。傷病者の状態に関して、野外切断の具体的な適応は、1)血行動態の不安定性と蘇生に対する反応の欠如、2)救出の試みの複数回の失敗、3)最小限に付いている四肢、ひどく損傷あるいは押しつぶされた四肢、4)生存者へのアクセスを妨げる死亡した傷病者、である。Macintyreら(2012)は、崩壊した構造での挟まれ事故の現場切断のプロトコールを提案した。
現場で切断を実施する場合は、チームで対応する必要がある。チームリーダーは四肢の解剖学によく精通し、切断術のトレーニングを受けた必要がある。挟まれの状況で最初に対応する医療提供者は、通常、救急医療の医師か外傷外科医である。通常、一員として上肢再建外科医はいないが、現場切断の救急マニュアルに24時間対応可能な手/微小血管部門の連絡番号を含めることを提案する。理想的には連絡は、携帯電話及びビデオ遠隔医療を介して行いたい。
四肢再移植および救助の専門家へのアクセスを有することは、意思決定過程、特に救急サービスの資源が限られているに状況おいて有益であろう。この専門家は、傷病者のバイタルに対する初期対応者の評価とともに四肢の温存の評価を支援し、その過程に追加の資源が必要な場合でも、または野外での切断を実施する場合でも、両者は協力して判断することができる。現在の高度な遠隔医療は、スマートフォンを介して外科医との電子コンサルテーションが可能である。
結論
エスカレーターのデザインの改善および保護者の意識の高まりにより、エスカレーター関連の小児損傷は減少した。しかし、これらの悲劇的な事故は依然として起こっているため、初期対応者および四肢救出の専門家による協調的対応は必要である。月齢18か月の小児の挟まれの症例を上げ、四肢の挟まれおよび現場での切断管理の最新アルゴリズムを提示した。可能であれば、遠隔医療を介しこれらの損傷の管理に、手/微小血管専門家を早期に関与させ、現場での管理を円滑にし、救出後の適切な外傷センターへの照会を迅速にすることを推奨する。