Journal of Emergency Medical Services 2021/11/1掲載
国際病院前医学研究所文献レビュー、2021年11月抜粋
1. 救急病院前評価で初期に特定されなかった脳卒中傷病者の特徴: システマティックレビュー (文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験のような質の高い研究のデータを、データの偏りを限りなく除き、分析を行うこと)
Jones SP, Bray JE, Gibson J, et al.Emerg Med J 2021;38:387-393
脳卒中は米国における死因の第5位である。脳卒中の救命の連鎖は、脳卒中の生存率を上昇させ、傷病者障害を軽減させる5つの特徴的な連係を表す。救急医療サービス(EMS)は、それらの連係の最初の3つに直接影響を及ぼす可能性があり、残りの2つの連係にも貢献できる。
脳卒中の早期発見、タイムリーで適切な対応、脳卒中センターへの早期連絡および搬送の3つは、脳卒中傷病者の転帰および結果にすぐにプラスの影響を与えうる連係である。脳卒中を早期に正確に認識することが、多くの場合は、最大の課題である。EMSだけが病院前に対応する者として考えることが多いが、救急医療指令員(EMD)が生存の脳卒中連鎖に及ぼす重大な影響についても考える必要がある。脳卒中を発症する可能性のある傷病者の現場対応者の、見極めや警戒を援助するために、早期発見の脳卒中スケールまたは脳卒中テストをEMDに含める必要がある。
現在、EMSの使用に適合しているか、脳卒中傷病者を正確に同定するために特別に開発された脳卒中スケールは複数存在する。これらのスケールまたはテストのほとんどは、傷病者顔面(非対称性および下垂)、腕(浮動)および発語の変化を認識するため、EMS担当者の能力に大きく依存している
本論文の著者らは、不正確な評価につながった脳卒中傷病者の病院前の症状を明らかにするために、発表された脳卒中論文のシステマティックレビューを完了した。「脳卒中、EMS、救急救命士、身元確認および評価」の識別子を用いて検索した。同博士らはさらに、論文検索を成人傷病者、18歳以上、およびあらゆる種類の脳卒中に絞った。検索により847件の論文が得られ、そのうち21件の研究が選択基準を満たした。
これらの研究では、6934例の脳卒中傷病者に関するデータが報告されており、そのうち1774例(26%)のEMSの傷病者が脳卒中陰性と誤って評価されていた。レビューした研究では、複数の病院前脳卒中スケールおよびテストを用いていた。研究によると、最も多く見逃された症状は、悪心および嘔吐(8%~38%)、かすみ、複視または喪失などの視覚障害または欠陥(13%~29%)、めまい(23%~27%)、精神状態の変化(8%~25%)および言語障害(13%~28%)であった。脳卒中傷病者と正確に同定された傷病者は、CTスキャンまでの時間が大幅に短縮していた(34.6分VS.84.7分)。
著者らは、彼らの研究に限界があることを認めている。EMS担当者は、急性脳卒中の疑いのある傷病者に対してのみ脳卒中評価ツールを実施していた可能性がある。研究の多くは、選択の偏りの原因となる後ろ向きデータを用いていた。全ての研究で、原因が頭蓋内出血と虚血性にあるのかを区別していたわけではなかった。 結論は出ていないが、本稿では、悪心/嘔吐、視覚障害、精神状態の変化、回転性めまいおよび言語障害を訴える傷病者について、病院前担当者および救急医療指令員は脳卒中の疑いを提起する必要がある。最後に、すでにほとんどの脳卒中スケールに含まれているため、最も懸念されることがある。検知され診断が不十分な心電図を心臓病の発症を除外するために利用すべきではないのと同様に、会話困難、視覚障害およびめまいなどの漠然とした神経症状を有する傷病者の脳卒中の可能性を除外するために、陰性病院前脳卒中スクリーニングを利用すべきではない。
2. 病院前の呼気終末二酸化炭素は、救急部到着時の出血性ショックを予測する
Bulger N, Harrington B, Krieger J, et al. J Trauma Acute Care Surg.2021;91:457-464.
循環血液量減少性ショックの早期発見と積極的管理は、現代のショック管理の基礎である。救急外来(ED)で未確定の循環血液量減少性ショックの早期発見を補助するために、乳酸値や塩基欠乏などの臨床検査が利用可能である。しかしながら、病院前の状況では、救急救命士は身体観察、バイタルサイン(脈拍、血圧、呼吸)および臨床的疑いに頼らなければならない。血液量減少性ショックの早期発見のための手段としての病院前終末呼気炭酸ガス(ETCO2)の使用を検討した。
著者らは、2016年1月1日から2019年12月31日までの単一都市EMSシステムから得られたデータを分析した。現場で二次エアウェイが装着され、換気を行った外傷傷病者を対象とした。1歳未満、気管内(ET)チューブを受けていない、完全波形ETCO 2データが入手できない、または外傷登録とマッチングできない傷病者は除外した。この群には計510例が組み入れられた。出血性ショックとは、救急室に到着した時点で血圧が90mmHg未満またはショック指数が0.9を超えるいずれかの血液製剤を少なくとも1ユニット投与されている傷病者と定義した。
本試験への登録に該当した傷病者は510例であった。除外後、計307人の傷病者を最終コホートに登録した。試験群の傷病者のうち、82%が男性、42%が試験の定義による出血性ショックであり、損傷の34%が穿通性外傷によるものであった。
試験参加者は、25mm hg未満のETCO2で救急部門を受診した場合、出血性ショックに陥る可能性が3倍高かった。ETCO2の中央値が25mm Hgであった傷病者87例のうち、69%が救急部門への到着時に出血性ショック状態であった。ETCO 2が20mm Hg未満の傷病者56例のうち、82%が出血性ショックであった。
著者らは、この研究の主な限界は、搬送時間が短い単一の都市のEMSシステムを代表しているため、他の設定に一般化することは困難であると述べている。最後に、挿管された傷病者のみを本試験に登録した。挿管された傷病者の一部は化学的に麻痺していたため、ETCO2値は換気によって影響を受けた可能性がある。
ETCO2波形モニタリングの使用は、病院前の設定で挿管された傷病者を監視するためのスタンダードである。最初は適切なETチューブの配置の検出に使用されていたが、気管支痙攣、エアトラッピング、心拍出量減少の評価など、ケアの他の側面に対する波形解釈の使用が近年進展している。本研究は、ETCO2が出血性ショックの早期検出のための病院前ツールにもなり得ることを示唆する。しかし、さらに検討すべき重要な疑問がいくつかある。搬送時間が長い傷病者は搬送中に出血性ショックを発症した場合、ETCO2が低下したことを示しているか?ショックの指標として考慮すべき特定の閾値はあるか?病院前のトリアージと目的地の決定にETCO2値を組み込むべきか?
この種の疑問に答えるためには、さらなる研究が必要である。