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EMSニュース No.90

Journal of Emergency Medical Services 2021/12/1掲載

1. 病院前FAST(外傷の迅速簡易超音波検査法)は、入院および手術治療までの時間を短縮させる

L Lucas B, Hempel D, Otto Rら(ドイツ) Eur J Trauma Emerg Surg 2021

低音波は腹腔内出血の迅速な検出のために外傷センターで利用され、必要であれば手術室への移送をより早くすることができる。FASTでは、血液が貯留する可能性のある腹腔依存領域を観察し、腹腔内出血の有無を調べる。技術の進歩に伴い、病院前での超音波の使用は、機械が小さくなり、救急車に乗せて保管しやすくなり、現在では可能である。病院前超音波検査の使用は、機械の費用、職員の訓練、およびその使用が結果の改善を示唆するデータが不十分であることから制限されてきた。

本試験は、外傷傷病者の病院内での治療結果に対して病院前の超音波使用がどう影響したかを分析するために、33カ月にわたってドイツで実施された前向き・無作為抽出・多施設間研究である。研究の一次的効果は、入院前超音波検査から外傷室への入室までの時間および/または手術までの時間を調査することだった。二次的効果は、病院前超音波検査が病院前の意思決定に及ぼす影響の分析だった。救急医と救急救命士を24時間体制で配置された6台の救急車、ならびに救急ヘリコプター1機について調査した。鈍的腹部外傷が疑われた全ての外傷傷病者を対象とした。偶数の週に、傷病者は通常の診察(CEX)ならびに病院前(Prehospital)FAST (CEX‐pFAST)を受けた。奇数の週に、傷病者はpFASTなしで標準CEXのみ受けた。病院では、腹部のCTスキャンが遊離体液および実質臓器損傷を診断するためのゴールドスタンダードであった。一次的効果については、最初の病院前検査から外傷室への入室までの時間および手術までの時間を記録した。二次的効果については、病院前治療計画の変更(「許容できる低血圧」、「少量輸液蘇生」、「容量の変更なし」、「さらに静脈アクセスの確立」を含む)が記録された。

総計242名の鈍的外傷傷病者を本研究に含めた。傷病者100例(41.3%)にCEX単独、142例(58.7%)にCEX‐pFASTを施行した。損傷重症度スコア(ISS)の中央値はCEX群で14、CEX-pFAST群で17であった。外傷室入室時、治療医は傷病者の93.4%を安定、6.6%を不安定と分類した。腹腔内遊離流体の検出感度はCEX単独群(80%)に比べてCEX‐pFAST群(94.7%)で高かった。両群とも、外傷室への入室までの時間はほぼ同じであった。しかし、腹腔内遊離流体が疑われる傷病者では、外傷室までの時間はp-FAST群の方が短かった(25分対38分)。CEX‐pFASTの使用は、全ての手術に対してCEX単独と比較して手術までの時間を減少させた(135分対150分)が、7名の傷病者のみが緊急腹部診査を必要とした。

本研究は、外傷に対する病院前超音波の使用の潜在的利益を立証する興味深い研究である。しかし、米国の外傷システムには適用できない。さらに、これらの試験傷病者における緊急手術までの時間は、不安定傷病者が日常的に外傷センターに到着してから数分内に手術室に運ばれる米国の外傷センターで通常認められる時間よりも有意に長い。最後に、試験対象集団は重度の傷害を受けていなかった。これらの傷病者の平均ISSは14~17であった。ISSが15を超える傷病者は重症と考えられ、ISSが25を超える場合は深刻な重傷とみなされる。本試験の対象集団は重度の損傷を受けておらず、緊急の腹部外科手術を必要とした総傷病者はわずか7例であった。

以上をまとめると、本研究は鈍的外傷傷病者の管理における病院前超音波検査の潜在的利益を実証するものである。 しかし、救急医療サービスと米国の外傷システムの違いを考慮すると、本研究は米国には当てはまらず、現在のやり方を変える必要はない。

2. 救急車の減速は仰臥位で頭蓋内圧上昇を引き起こす

Maissan IM, Vlottes B, Hoeks S, Bosch J, Stolker RJ, den Hartog D. (オランダ)Scandinavian J Trauma, Resusc and Emerg Med 2021;29:87

TBI(外傷性脳損傷)は若年者の主要な死因の1つである。TBIによる死亡は、脳への一次損傷、または頭蓋内圧(ICP)の増加など二次損傷から脳内血流が減少する結果である可能性がある。

外傷性脳損傷傷病者の仰臥位輸送中の減速は、頭蓋内圧を悪化させる可能性があると長い間推測されてきた。観察研究では、搬送中に頭部を高くすること、およびその後の減速がICPに影響を及ぼすかどうかを明らかにしようと試みた。ICPの増加と超音波で測定した視神経鞘直径(ONSD)との間には、証明された関係性がある。ICPが上昇すると、脳脊髄液が視神経鞘内を自由に移動するため、ONSDの直径も大きくなる。

オランダのホランズ ミドル アンビュランス サービスの健常成人(17歳以上)のボランティア20名を本研究のために募集した。各被験者は、ケンドリック脱出固定具(KED)および超音波装置と眼球集束装置を特別に装着した自転車用ヘルメットを着け固定された。次に、被験者を救急車のストレッチャーに固定し、頭から先に車両へ収容した。訓練を受けた救急車ドライバーが閉鎖された試験用道路で車両を運転した。超音波検査士が同乗し走路を通過する毎に、OSNDの結果を記録した。

検査前の超音波測定で、OSND直径(平坦および30度頭部挙上)を測定した。テスト走路を通過するごとに、救急車は時速50kmまで加速し、その後、10mの距離で時速0kmまで減速する。これを繰り返し測定した。同博士らは、OSNDの基準値からの変化が0.2mmを超えることは臨床的に重要であると考えた。

ストレッチャーはフラットで被験者は仰臥位において、基準値とその後のブレーキングでONSD直径は、それぞれ4.8mm (範囲 4.80~5.00)と6.0mm (範囲 5.75~6.40)であった。ストレッチャーの頭部を30度高くした状態で、ベースラインおよび制動時のONSD直径の測定値は4.8mm (I範囲 4.67-5.02)および4.9mm (範囲 4.80-5.02)であった。この研究では、仰臥位での減速でONSDが24%増加し、ヘッドアップ30度の位置ではほぼ0%の増加が実証された。被験者20人全員が仰臥位でのブレーキング中に0.2mm以上OSND直径は増加したが、20人の被験者のうち5人のみが30度ヘッドアップのブレーキング中に0.2mm以上増加した。

この研究は、健康な被験体が少数で、非常に制御された減速環境で行われたという事実において限界がある。さらに、研究実施内容や傷病者について超音波検査技師を盲検化する方法ではなかった。

制限されているにも関わらず、実験の結果は、救急車の減速はICPを増加させる可能性があるが、30度のヘッドアップ姿勢でTBI傷病者を搬送することによって、減速が誘発するICPの増加から二次的脳損傷を阻止する可能性があることを示唆している。

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