EMSニュース No.95

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外傷性切断とコントロール不能な出血の管理方法

ディーン ミーナック・マーシー病院上級看護師/救急救命士 著
EMS1 2020/8/8 掲載

切断の種類、出血を迅速にコントロールする方法、身体の一部を適切に保存する方法を知ることは、生存率の向上につながる

外傷性切断は戦闘中によく起こる傷害である。兵士は、外傷性切断を、最も感情的になる傷害のひとつであると報告している。
幸いなことに、これらの重傷に伴う生存率は、即時処置および安定化の改善により、予想以上となっている。軍事領域の進歩は、民間の救急隊員による切断処置の改善にも道を開いた。
米国では毎年最大83,000件の外傷性切断が発生していると推定される。被害者の80%は15~40歳の男性である。
自動車の衝突事故が最も多く(51%)、次いで産業事故(19%)、農業事故(10%)の順である。最も一般的な外傷性切断は手の部分切断で、1指あるいは複数指が失うものである。片腕の切断は、2番目に多い外傷性切断である。手首と手の切断は、外傷性切断の約10%程度に過ぎない。

切断の種類
切断は部分切断と完全切断に分けられる。
部分切断は、骨、組織あるいは筋肉が切断された一部分を身体に留めておく場合に起こる。部分切断は民間では多く、通常は外科的切断を必要としない。完全切断とは、体から四肢が完全に切断されたことである。
切断は、軟部組織、神経、骨、血管の損傷の程度によっても分類できる。鋭利な切断やギロチン切断は、、解剖学的構造上、損傷が最小限で輪郭がはっきりしている。身体の一部が切断されたこのタイプは、最も再接合しやすい。
挫滅切断は軟部組織と動脈の損傷が大きい。再接合が成功する可能性は低くなる。
剥離切断は、組織への強くて過度な伸展と断裂によって起こる。神経と血管組織は、分離部位によって多くの異なるレベルで断裂している。損傷が大きいため、患肢の温存の可能性は低い。

切断した傷病者の管理
一般に、外傷性切断の管理は、他の外傷傷病者と変わらない。最優先事項は、大量出血を直ちに制御することである。ターニケットは、圧迫と挙上に失敗した場合に使用する。
四肢の外傷性切断による出血を制御するためにターニケットを使用することを支持するエビデンスは、2008年以降の文献で十分に確立されている。四肢の虚血および神経圧迫を制限するために、切断部位のできるだけ近い位置にターニケットを配置する。出血がコントロールされたらすぐに、ターニケットを解除する。軍事救急ケアの優先順位は、2009年から積極的なターニケット使用と全血・血液製剤の早期使用に重点を置いている。
次に優先するのは、必要な生命機能を維持し、支援することである。気道の確保、十分な換気、血行動態の安定性および体温の維持などの支持的措置は、生命を脅かすショックの発症を遅らせることができる。可能であれば切断部位を回収する。切断された部分と残肢から、汚れや破片を取り除く。疼痛管理と心理的サポートを行い、適切な外傷センターへ搬送する。

切断された身体部分の保存
移植を成功させるためには、患部を適切に温存することが肝要である。指や手足がまだ身体に付いている場合は、滅菌生理食塩水で傷口をきれいにする。損傷した皮膚を正常な位置にそっと戻す。出血をコントロールし、大きな圧迫包帯で創傷に包帯を巻く。
切断部位が完全に剥離している場合は、切断部分を洗浄した後、圧迫包帯で創傷を覆い、出血をコントロールする。切断された部位を滅菌生理食塩水に浸したガーゼで包み、密閉容器または再密封可能なビニール袋に入れる。それを氷入りの生理食塩水容器に入れる。損傷部分が直接氷に触れないようにする。切断部位を傷病者とともに運ぶ。

外傷性切断の軍事ケア
市民EMSでは、気道、呼吸、循環の一次評価(ABC)が優先される。軍事ケアは、戦闘関連の死傷者が気道問題よりも出血で死亡する可能性がはるかに高いことを認識している。優先順位を「ABCから<C>ABC」に変更し、最初に生命を脅かす出血を止めることを優先する。したがって、軍事略語における最初の「C」は「致命的な(Catastrophic)出血(haemorrhage)」を表している。
軍隊の被害者は、外傷メカニズムの違いにより、民間人よりも複数の切断や接合部出血を経験する可能性が高い。接合部出血は体幹と四肢の間(高位切断)、骨盤領域と脚の間で起こる。接合部出血の最も多いのは鼠径部出血である。従来のターニケットはこれらの位置に装着することができない。ジャンクショナル(接合部)ターニケット(トランカル・ターニケットまたはコンバット・クランプなどとも呼ばれる)は、損傷部位の上に的確に配置し出血が止まるまでポンプアップできるターゲット圧迫装置を装えている。ジャンクショナルターニケットの一般的な用途には、鼠径部出血のコントロール、腋窩出血のコントロール、骨盤骨折の安定化などがある。

市販されているジャンクショナルターニケットは多種多様であるが、FDAの承認を得ているのはごく少数である。これらは、従来のターニケットが有効でなかった解剖学的領域における重度の出血をコントロールする可能性を提供する。
重度のコントロール不能な四肢出血の処置に用いられる従来のターニケットの有効性は十分に確立されている。多くの救急医療従事者はジャンクショナルターニケットの成功を証言しているが、これらの装置が傷病者の転帰を改善することを証明するデーターは、まだ科学の厳密さを満たしていない。ジャンクショナルターニケットは、病院前の医療従事者が今後数年間にわたって、継続的に評価・研究する分野であることは間違いない。

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