2024/11/21 第33回 全国救急隊員シンポジウム(秋田市)

EMSニュース No.99

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クッシング反射の3徴候、3症例より

JEMS 2021/2/10 掲載

クッシング反射の3徴候と損傷の機序が、頭蓋内圧上昇とショックを区別するのにどのように役立つか

クッシング反射の特徴:

①高血圧   ②徐脈   ③不規則な呼吸-主にチェーン・ストークス呼吸
このことは、脳ヘルニアの切迫した危険性を示すことが多い。
ショック-血流低下-は、外傷や重大な病気にかかったときによく思いつくことである。ショックの特徴としてよく上げられるものは:
①血圧低下    ②心拍数を補う(少なくとも、補おうとする)心拍数増加③呼吸数の増大
もし、その逆が起きたらどうするか?痛みや症状があるのに、バイタルサインがおかしいとしたらどうするか?
しかし、自分が考えている外傷/病気、あるいは3徴候に当てはまらない。
傷病者のバイタルサインが、ショック状態とは一見正反対の場合、ショック状態ではなく、頭蓋内圧の上昇に対処している可能性がある。
頭蓋内圧(ICP)とは、頭蓋骨と脳の間のくも膜下腔の脳脊髄液の圧力のことである。
外傷の3徴候でもなく、ベックの3徴候でもなく、ここで関わりのあるのはクッシングの3徴候である。
クッシングの3徴候は、もう少し単純化された形に関連付けされると、ショックの3徴候と直接比較(または対比)することができる。不規則な呼吸ではなく、呼吸数(または有効性)の減少、すなわち徐呼吸と考えた。このように、ショックが血圧低下(低血圧)、心拍数の増加(頻脈)、呼吸数の増加(頻呼吸)に相当すれば、ICPの上昇はまさに逆である:

①血圧上昇 ②心拍数の減少 ③呼吸数(努力)の減少
必ずしも3徴候の概要とは同じではないが、この相関関係について私の言いたいことは理解いただけると思う。
これらの修正された、または適正な3徴候を考慮し、クッシングの3徴候と頭蓋内圧の上昇が様々な傷病者の損傷/疾患にどのように現れるかについて、3症例を見てみよう。

1. クッシングの3徴候の症例:脳卒中
73歳の傷病者は、急性の意識不明である。身体的な外傷はないようなので、血糖値を調べると96mg/dLである。オピオイドの過量投与を疑われないため、ナロキソンの適応はない。傷病者の夫はこのことがあった時に、傷病者といっしょにいて、今朝、頭痛で目覚め、非ステロイド性抗炎症薬では治まらなかったと報告している。実際に、突然意識不明になる前に頭痛は強まった。非定型(不規則、無効)呼吸を示し、BVM換気で管理する。心拍数は70台である。血圧は206/114で、これは確かに彼女の標準ではない。
この情報に基づいて、最初の鑑別診断は何であるか?
「脳卒中」と叫ばれている方、おそらくそれは正しい!出血性脳卒中は脳卒中の約15%を占める。一般的には、出血性脳卒中は、頭蓋内動脈瘤(血管破裂)やその他の血管の弱体化によって引き起こされる。破裂または損傷した血管から血液が漏れると、蓄積し、周囲の脳組織を圧迫する。出血性脳卒中は一般的に、脳内出血とクモ膜下出血に分類される。出血性脳卒中の典型的な症状は、顔面、上肢、発語の障害の他に、突然の激しい頭痛および/または突然の無反応がある。

2. クッシングの3徴候の症例:負傷の機序
2階建ての住居の屋根から、湿った合板表面を滑って転落した屋根工事業者に出動した。30代半ばの傷病者が芝生の上で仰向けの姿勢でいるのを見つける。意識はない。外出血の徴候はないが、口(舌)からの少量の出血がある。呼吸は乱れ、70台の心拍数、血圧は160/102であった。
バイタルサインは、頭蓋内圧上昇をはっきり示しているわけではないが(まだ)、非代償性ショックの経過をたどっているわけでもない。
この症例の要点は、損傷の機序から、この傷病者は頭部外傷の疑いが強く、生理食塩水1リットル~2リットルを事前に傷病者に投与することは、あまり良い考えではないことである。実際、それは有害かもしれない!
時には、傷病者の損傷がいかにひどいものであっても、全ての外傷傷病者をショック傷病者として扱う(そして、全ての外傷性ショック傷病者に大量の輸液を行う)という従来の方法は、最善の方法ではない場合がある(そして、できれば、あなたのプロトコルにこれが反映されていることが望ましい)。

3. クッシングの3徴候の症例:二次性頭部外傷
ある冬の午後(中西部の冬、37℃)、10代の若者のグループが、公園の地元のスケート場でアイスホッケーのレクリエーションゲームをしている。パックのスラップショットをほぼ完ぺきに決めたが、これが悲惨な出来事へとつながった。選手の一人がパックで顔を打たれ、ノックアウトされ、直立したまま身体を氷に打ち付ける(ゴーン!)。この時、顔を打たれた選手は、この出来事によって1次的にも2次的にも頭部を損傷している(1次はパック、2次は氷)。
簡易ベッド、スクープストレッチャー、またはロングボードと救急バッグを携帯し氷上を滑走し、意識のない傷病者に近づく。口の中や顔、頭の周りから血液が流れている。いびきをかき、ゴボゴボと呼吸(血液から)をしていて、大騒ぎの群衆がその場を取り囲んでいる。行動する時間があまりないので、すぐに気道から吸引を始め、(手動で頸椎を安定させた状態で)、傷病者をすくい上げ簡易ベッドへ乗せる。
救急車に乗ったら、衣服を切り、吸引を続け、傷病者の人口呼吸を始める。手動式血圧測定は、収縮期血圧が190の高血圧を示す。
頭部外傷の徴候を認識する


これらの症状が「クッシングの3徴候」であるかどうかを思い出せるかどうかで、傷病者のケアや傷病者のケア報告が左右されることはないが、その症状が頭部外傷の徴候であると認識することはできないだろう。
繰返しになるが、すべての外傷が直ちにショックにつながるわけではないので、輸液は正しい対応ではないかもしれない(また、ショックであっても、輸液はまだ正解ではないかもしれない)。ショックと全く正反対の症状に直面しているときは、いつでもシステム的に考えないでいただきたい。

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