(1)米国における外傷に対する病院前ターニケット使用の特徴と転帰 (4)循環補助装置を用いた心肺蘇生中の頭部および胸部挙上は、生存率の改善と関連している
Journal of Emergency Medical Services 2023/2/1掲載
(1) 米国における外傷に対する病院前ターニケット使用の特徴と転帰
Hashmi ZG, Hu P, Jansen JO, Butler FK, Kerby JD, Holcomb JB. らPrehosp Emerg Care.2023;27:31-37.
国では、1~44歳の傷病者の死因の第1位は外傷であり、予防可能な外傷死の原因としては、制御不能な出血が最も多い。制御不能の四肢出血は、現場で処置可能である。本研究の筆者らは、ターニケットの病院前の装着が出血した外傷傷病者の転帰に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 著者らは、米国救急医療情報システム(NEMSIS)2019データベースで報告されたすべての活動性外傷のデータを用いて遡及調査を実施した。このデータベースには、47の州・地域の1万を超えるEMS機関から報告された3400万件の病院前事故に関するデータが含まれている。ターニケットが適用された傷病者を、ターニケットが適用されなかった同数の同等の傷病者と比較した。 活動性外傷4,571,379件のうち、適用されたターニケットは7161件で、活動性外傷1000件あたり1.6個のターニケットが適用されたことになる。1個のターニケットが6395名の傷病者(89.3%)に適用され、2個のターニケットが701名(9.8%)に使用され、3個以上は65名(0.9%)に使用された。ターニケットが使用された外傷の約半数は四肢の銃創または刺創であった。 ターニケットの使用は、病院の救急部までの生存率が高い(83.6%対75.1%、p<0.01)、病院前の死亡率は低い(0.4%対1.0%、p<0.01)、現場時間の短縮(15.4±13.6対17.0±14.2分、p<0.01)と関連していた。外傷センター到着後にターニケットを装着した場合、循環血液量減少性ショックによる死亡リスクが4.5倍高かった。さらに、血行動態の不安定な四肢損傷を記録した14万人を超える傷病者が、損傷した四肢にターニケットを適用していないことがわかった。 本研究の限界としては、救急医療サービス機関から自主的にデータが提出されたものであるため、選択のバイアスが生じる可能性があるということである。ただし、1万を超えるEMS機関がデータセットに含まれていることから、信頼性は高いと考えられる。2つ目の限界は、データの欠落に関するものである。最終的に、NEMSISデータベースには、病院の処置に関するデータが50%を超えて欠落しているため、長期的な転帰を報告することはできなかった。 本研究は、米国の救急隊員によるターニケットの使用が、現場時間の短縮と病院までの延命率に繋がっていることを実証していた。残念ながら、この研究では、全般的なターニケットの使用率は低く、四肢の損傷および血行動態不安定な傷病者の多くは処置されてないことが示された。一般市民が病院前の環境で、ターニケットをより広く使用することによって、多くの傷病者が恩恵を受ける可能性がある
(4) 循環補助装置を用いた心肺蘇生中の頭部および胸部挙上は、生存率の改善と関連している
Moore JC、Pepe PE、Scheppke KAら、Resuscitation2022; 179: 9-17.
過去60年間、医療提供者と一般市民は皆、心停止の傷病者を硬い表面に平らに置き、心肺蘇生(CPR)を始めるように教えられてきた。自動体外式除細動器(AED)の配備が進んでいるとはいえ、一般市民がCPRを行った、院外心停止(OOHCA)の生存確率は約10%である。この10%のうち、神経学的に無傷で生還できる人はさらに少なくなる。本論文の筆者らは、硬い表面での従来のCPR (C-CPR)体位とは異なる傷病者体位を取ることにより、心停止の救命を向上させることを試みた。過去の動物実験では、心停止体の頭部および胸部を挙上し、積極的な圧迫と除圧CPRおよび換気中のインピーダンス閾値弁装置を配置することを実験した。この3つの方法を組み合わせることで、頭部からの静脈排出が促進され、脳潅流圧が低下する一方で、重力によって胸郭への潅流が改善されるという理論である。 CPR を行う病院前傷病者の頭部と胸部に自動制御昇降器(ACE)を使用した前向き研究の実施の同意免除のために、治験審査委員会の承認を得た(ACE-CPR)。ACE-CPRに加えて、傷病者をインラインインピーダンス閾値装置で換気した。プロセスは以下の通りであった:
●CPRを6秒以上中断しないことを目標に、傷病者を自動傷病者位置決め装置(APPD)を設置したルーカス2胸骨圧迫装置に移動させた。
●位置に置くと、APPDは傷病者の頭部と胸部をそれぞれ12cmと8cm挙上させた。
●さらに2分間のルーカス胸骨圧迫を行った後、APPDが作動し、傷病者の頭部と胸部を2分かけて、それぞれ22cmと9cmまで上昇させた(ACE-CPR)。
10のEMS機関が本研究のために選ばれた。10機関のうち、4機関でACE-CPRのトレーニングおよび配備が遅れたため、使用可能なデータは6機関であった。データを提供した6機関は日常的にACE-CPRを使用しており、911コールからCPR開始までの時間を含んでいた。本研究で病院外心停止の治療を受けた被験者は、18歳以上で、収監されていない人ばかりである。妊娠中の女性も含めた。対照群は、米国心臓協会基準に従って質の高いC-CPRを提供したEMS機関による心停止記録から選択した。OOHCAを発症した対照群の傷病者はいずれも18歳以上で、囚人ではなかった。時間の偏りを避けるために、著者らは、911コールからEMS CPRの開始までの時間に基づき傷病者をマッチさせるよう努めた。ACE-CPRの前に、電気ショックによって自然循環が回復した傷病者は、本試験に登録されていない。 15ヶ月間にわたり、ACE-CPRの227症例が選択基準を満たし、傾向スコア解析により対照傷病者とマッチングさせた。著者らは、911コールからACE-CPRの開始までの時間が、18分より短いほど、生存退院の可能性が高くなることを明らかにした。また、ACE-CPRは、対照のC-CPR群の傷病者よりも、自然循環の回復、退院および神経機能の改善の可能性が高かった。この所見は、ショック適応波形とショック非適応波形の両方の傷病者に当てはまった。 研究の限界として、観察データと無作為化試験の比較、小規模データ群、傾向スコアによるデータマッチングなどである。さらに、研究施設は類似していたが、すべてが同じ病院前プロトコルを使用していたわけではなかった。 著者らは、この研究が、ACE-CPRを素早く実施することで、OOHCAからの生存の可能性を高めることができることを実証したと考えている。この手技は、ファーストレスポンダーが開始できる。症例数が比較的少ないため、より多くの傷病者群による追加試験を実施する必要がある。